辻斬り、人斬り抜刀斎




「辻斬り…ね。」

今の時代に、辻斬りをやっている奴が居るとは、とは渋い顔をした。
それに、人斬り抜刀斎の名を騙っている。どういうことだ?は歩む足をそのままに益々渋い顔になる。

「大分、面倒くさいことになっているようだ。」

と、呟いた矢先。
目の前に何者かによって弾き飛ばされたらしい先ほどの女子がいた。刹那、肩口から噴血。
これは穏やかな状況ではないな。とは小さく舌打ちをして、身軽に飛ぶ。
切先が女子に降りかかる寸前、女子を持ち上げて、は女子を救出した。

「危なっかしいな…。」

見事に地面に着地して、またもため息。チラと女子を襲った輩を見ると、大分図体のでかい奴のようだ。

「我は抜刀斎!」

その声に、警官たちが震え上がる。

「神谷活心流、抜刀斎!!人呼んで人斬り抜刀斎!!」

叫びながら駆けていく、”人斬り抜刀斎”。女子は逃げ去る辻斬りを見て、
「待て!」と追いかけようとする。だが、が女子の髪を掴む。「君が待て。」

「何よ!?離してよ!」
「手負いでの深追いは駄目だ。相手は流儀を名乗っているんだ。そうあせらなくても大丈夫だろう。」
「神谷活心流はうちの流儀よ!」

その言葉に、は?と豆鉄砲でも喰らったような顔になる。うちの流儀?

「奴はウチの名を騙って辻斬りをしでかしてるの!」
「…ははぁ、なるほど。」
「だからひっとら…!」

再び辻斬りを追いかけようとする女子の髪をまた捕まえて、ため息。

「君は僕の話を聞いていたのか?深追いは駄目だってのに。」

気を失った女子を抱えて、小走り。
とにかく、早くづらかろう。警察に見つかってはやっかいだ。
女子は神谷活心流と言っていた。とにかく、そこを目指そう。



神谷活心流道場は案外近くにあり、女子を抱えたまま道場へ入った。
彼女の身内に女子を引き渡して、さっさと野宿の場所を探さねば。

「おや?」

何処からか声がする。声のした方を見れば、小柄な白髪の老人がを見て不思議がっている。
女子の身内だろうか、は小さく頭を下げて「こんばんわ」と言う。

「こんばんわ。貴方が抱えているのは薫さん、ですかな?」
「名前は存じてないんですが、ご老人。この方の身内か何かで?」
「まあ、住み込み奉行みたいなものです。」
「それは丁度いい。では、中へ案内してくれませんか?」
「わかりました。」

万が一、薫と呼ばれたこの女子とは全く無縁の者だったら大変だ。
は老人の後に黙ってついていく。途中、ン…。と声が聞こえてくる。どうやら、意識を取り戻したようだ。
「ちょ、エっ!?」とジタバタ暴れる。落ちてもいいのだろうか、コイツは。とため息をつく。

「暴れるな。落ちるって。」
「いいから離してよー!ここはどこ!?」
「ここは君の道場。」
「えーーー!?人斬り抜刀斎は!?」

喚き散らす薫に、とうとうは言われたとおり薫を離した。重力に従って地面に落ちた薫。
いったーーーい!と大音量で喚いた後、アンタって、鬼なのね!と睨まれた。

「言われたとおり離しただけだろ。」
「捻くれ者!」
「なんとでもいってくれ。ともかく、手当て。」
「むかつく男ね!」

と、言いつつも、明かりがついた道場へと素直に歩いていった。