聞き込み調査




神谷薫と出会って一日経った次の日。はどうしても彼女の涙を忘れることが出来なかった。
もっとも、忘れようとも思っていない。目の前に居る助けを求める(求められては居ないが)人を
放っておくわけには行かない。は早速街を散策し始めた。

――何処の道場にいるんだろうか

刀を提げている以上目立った行動は出来ない。穏便に道場を探し出そう。

だが、現実はそう甘くはなく。もう半日は歩き回ったが、「人斬り抜刀斎」を名乗る人物らしき者
は一人も現れなかった。茶屋に足を運んで噂話に耳を傾けてみるも、無駄だった。
うだうだと有力情報もつかめぬまま、数日が過ぎた。

「待て!」

後ろから声が聞こえるが、自分には関係ないだろう。と無視をする。

「待てといっているだろうが!そこの廃刀令違反!!」

今の世に僕と同じく刀を提げている人が居るとは、と興味ありげに振り仰げば、
多数の警官が此方へ走ってきている。キョロキョロと辺りを見渡すが、どうも自分に視線が注がれている。
つまりこれは…

「ヤバイ状況…?」

あっという間に取り押さえられ、廃刀令違反め!と罵られた。困ったことになった。
このままでは逆刃刀が没収されてしまう。は抵抗を試みた。

「離せって、おい。」

声を荒げて(そうでもないが)刀を死守しようとするが、相手は多数。
どうにもこうにもうまくいかない。

「ちょっと流浪人!」

この声はどこかで聞いたことある声だ。無様にも地面に倒されて身動きが取れない
顔だけ上を向けて声の主を見る。服装は大分女の子らしい着物を着ているが、確かに神谷薫だ。

「君は…。女性の格好をしていたから、一瞬誰だかわからなかった。」
「ふーんだ、そういう捻くれたこといってると助けてやんないんだから!」
「…すみませんでした。」

素直に謝ったに拍子抜けした薫だが、すぐに警官に「この人何をしたんですか?」と尋ねる。

「見ての通り廃刀令違反だ。…ん?お前は確か人斬り抜刀斎の道場の―――」

そのこと言葉に、薫の米神に青筋が浮かんだ。一気に鬼の形相になった。

「それは濡れ衣だといってるじゃない!!!」
「な、何だその言い草は!貴様官に盾つく気か!」
「官、官って!お上の威光を笠に来て威張ってるんじゃないわよ!!」

警官と薫の言い合いに目を白黒させていただが、
薫の道場に住み込んでいる老人の行為に思わず目を見張った。

「まあまあ落ち着いてください…。ここは一つ穏便に。」

そういって老人は―――札を警官の手に握らせた。
少し戸惑いながらも立ち去っていく警官の後姿を見て、「汚いねぇ。」とポツリ呟く。
どうやら薫は気づいていないようだ。

「それにしても、まだ貴方この街にいたの?なんか用事でもあるわけ??」
「や、別にそういうわけじゃないけど…。それより、例の辻斬りについてなんかわかったことあるのか?」
「ええ、まあ。一応犯人らしき人は浮かんだけど…。」

その言葉に、老人の目が一瞬ギラリ光った気がした。
気のせいだ、と思い込ませては薫の言葉に耳を傾けた。