最終決着、人斬り抜刀斎VS人斬り抜刀斎




近くで見ると、伍兵衛の巨体は迫力を感じざるを得なかった。
だが、でかいのは図体だけ。手加減はしない。人々を不安のどん底に陥れたのだから。
伍兵衛は血走った目でを見定めフンと鼻を鳴らす。

「いつぞやの晩は小者と見て相手にしなかったが、これほど強いとは。貴様力を隠していたな!」
「僕は君と違って暴れるのが好きじゃないんだよ。だけど、あの時叩いとけばって思う。反省もしてる。」

あの時叩いとけば、今、誰も傷つかずにすんだのに。と、後悔する。

「大した自信だ!!だが、それは自惚れと言うものだ!この世に抜刀斎は二人も要らん!
 この俺様こそ抜刀斎を名乗るにふさわしい!!!」

を真っ二つにするように刀が持ち上げられ、振り下ろされようとする。
だが、はそれを許さなかった。
振り下ろそうとする刹那、は伍兵衛の背後に飛び回り、「こっち。」と低く呟く。
伍兵衛の驚愕の表情。次の瞬間には、勢いよく刀が振り下ろされた。


ふしゅううう…。
伍兵衛はの逆刃刀に斬られ、勢いよく地面に叩きつけられた。床が割れて、砂埃が上がる。
ぴくりとも動かない伍兵衛に背を向ける。

「抜刀斎の名に、未練も愛着もない…。それでも、君みたいな奴には譲れない。」

彼に意識は最早ない。戦意もないだろう。残るは、黒幕ただ一人。

「さて、残るは一人。」

刀の切先を、喜兵衛へ向ける。逆刃刀が怪しく光る。
喜兵衛は刀を見て、呼吸を乱して道場の壁へドンと辿り着く。

「黒幕の君は、この程度じゃ済まされない。この逆刃の切れ味…試してみる?」
「ひっひはぁ…。」

喜兵衛の口の端から何か出たと思ったら、それはどんどんと溢れて、目を白くさせて
そのまま腰を落とした。しょぼしょぼと床に染み渡る液体。はやれやれと顔を渋らせる。

「策を弄するものほど、性根は臆病な奴だ。」

手に持った土地の書類を手に取り、ビリビリと破き捨てた。
私欲に塗れたやつめ…と内心毒づく。薫が、居た堪れない表情でを見ている。
はため息をつき、振り仰ぐ。

「すまん、神谷薫…。僕は、騙す気も、隠す気もなかった。ただ…できれば、語りたくなかったんだ。」

悲しげな目をして、微笑んだ。悲しくて、痛々しい笑顔だ。薫は、胸が締め付けられるのを感じた。
語りたくない過去の一つや二つ、誰にでもある。流浪人にとってのそれは、これなんだろう。
―――――それでも、それでも私は…。