「ちきしょう…強くなりてぇ…!お前の助けなんていらなくなるくらい…!
 父上と母上の誇りを自分の力で守りきれるくらい!」

自らの非力さを恨む弥彦。集英組でズタボロ言われたのだろう。
彼は自分の父と母を誇りに思っている。だからこそ、言われたことに腹が立ったんだろう。
だが、現実は甘くなく、自分ひとりの力ではどうにもならないことを知った。
それは苦しく、悲しく、切ない。それはも同じだった。辛かった、本当に辛かった。
もし自分が強かったら、あの時…。と、小さい頃は何度も悔やんだ。

「…そうか。」

やがては小さく呟き、神谷活心流道場へ足を速めた。




新たな弟子




一方その頃薫は、門の手前で忙しく動き回っていた。大丈夫かしら?あの子…。
が救出に向かったからには百人力だが、もし間に合わずに切り殺されてたりしたら…。
考えただけでぞっとした。大丈夫だろう、そう言い聞かせて、もしあの子が重症だったときの事を想定して
俥を呼ぶことにした。


電話をし終えて、再び門の手前へやってきて、またうろちょろする。
大丈夫かしら…。、無事よね?絶対大丈夫だろうけど、やっぱり心配してしまう。


そのとき、門が開いた。扉から、いつもどおり無表情なと、に担がれている弥彦が居た。
矢張り大怪我をしている。頭から血が滾っている。痛ましさに思わず苦い顔をする。

「やっぱり大怪我しちゃってるわね、表通りに車を待たせてあるから早く医者へ―――」
「これが神谷活心流師範代で、神谷薫。今から童の師匠だ。」

目が見開かれて、二人とも一秒くらい固まる。は二人を見て、うんうん。と頷いた。
この童は強くなる。そう確信していた。但し、神谷活心流で。

「ちょっと待て!お前俺に剣術習えってのか!?このブスに!!」
「先生って、まさかこの子を門弟に!?!?」
「おす。」

呆れてものも言えなくなった二人。

「さあ、後は君の努力しだいだ。せっかくお膳たてを揃えたんだから、思う存分強くなれ。弥彦。」

驚いて目を見開く。そうか、こいつは俺の気持ちを汲み取って…。

「へっ、当たり前だろ!」

こうして、神谷活心流道場に二人目の居候が増えた。

「―――ちょっと!」

薫が何か気づいたように声を上げる。

「あんたさっきまたブスっていったでしょ!」
「だからどーしたブス!」

胸倉を掴みかかった薫。危ない、危険である。は焦る。
彼女の腕力は計り知れないのだ。

「その前に、医者。」

と、声をかけるも、二人には何も聞こえてない。
やれやれ、とため息をどっとついた。

「喧嘩するほど仲がいいってね。」
「「それだけはない(わ)!」」

見事にハモって返された。ほら、やっぱり仲いいじゃないか。