弥彦の怪我はほぼ一週間で完治。早速神谷活心流再興に向けて早速稽古が始まった。
だが、二人は衝突しまくりで、先ほどから一向に稽古が始まる気配がない。
これにはも閉口した。こんなんでやっていけるのか…?先を思って苦い顔をする。

「なあ!」

突然話を振られて思わずえ?と聞き返す。何も聞いていなかった。

「俺は強くなるためにここにきたんだ!なのにこんな小娘じゃ話になんねぇよ!
 だって強くなれって言ったろ?だったらお前の剣を教えろよ」
「飛天御剣流は後世に伝える気はない。君は活人剣で強くなるんだ。」
「しめてやる!!」
「やってみやがれ!!」
「…聞いてないってオチか。」




神谷活心流復興




自分は弥彦の稽古があると言う理由で薫はに味噌やら塩やらの買い物を任せた。
は渋い顔をして首を振って拒否を示したが、問答無用に行かされた。
人使い荒すぎる…。と言ってやったが、見事にスルーされて渋々おつかい。


「いらっしゃい…あら、様!いらっしゃいませ、今日はどういたしました?」

店員に挨拶されてペコリとお辞儀をする。名乗った覚えはないのに、最近街を歩くたび
様!」と握手を求められたり、お辞儀をされたりする。
何故?とたびたび思うが、ここ最近の目立った行動を思い出して納得することにした。

「米と塩と味噌と醤油をいただきたい。」
「毎度ありがとうございます!…毎回大量に買い込みますね。」
「ああ、家主が一度に買い込もうとする人で。全く、困ったものです。」

そうこう話しているうちに注文の品をせっせと用意してくれて、は何気なく
道へ目を向ける。色々な人が行きかう道、大人数の集団がずかずかと街中を歩いていく姿が
見えた。まるで人なんていないかのように我が物顔で道を歩いている。愚連隊だろう。
穏やかじゃないな、は眉を寄せるが、「お待たせしました。」と店員に呼びかけられて
向き戻った。




神谷活心流道場へ戻る途中、なにやらヒソヒソと囁く声が聞こえてきた。

――神谷活心流道場に愚連隊が押し寄せたらしい。――
――何かあったのか?――
――わかんないけど…あそこの道場は何かと色々あるな――

は先ほど店内から眺めた光景を思い出した。
先ほどの愚連隊が道場へ押し寄せたのだろうか。は買ってきたものが零れないように
気を遣いながらも駆け出した。

道場へ近づくにつれて騒がしくなってくる。やばいな、の顔が険しくなる。
つい先ほど、ドゥン!と言う不吉な音も聞いた。急がなければ―――は道場前まで急いだ。

「なにやら悪さをしでかした奴を匿ったらしい。」
「何でそんなことを…。」

行く途中に色々と耳にはいってきた。大体は読めてきた。お人よりの彼女の事だ。あながち嘘ではない。
神谷道場へ足を入れ、その光景を目の当たりにした瞬間に、穏やかじゃない言葉が聞こえてきた。

「ぶっ殺してやる!」
「…ぶっ殺してやるとは、穏やかじゃないな。」
「「!!」」

どうやら薫と弥彦は無事なようだ。とりあえず安心した。
先ほど聞いたドゥン!という音は、どうやら木砲の音だったらしい。
やけに派手な穴が道場に開いている、面倒くさいことしてくれたな。
買ってきた品物を地面に置きつつ少し恨めしく思う。

「何やら奥の二人が悪さでもしたようだな。だが、何も木砲まで持ち出すことはないだろう。
 悪乗りはここまで、リンチなんて真似はよせ。」
「うるせえ!なんだてめえは!!」
「まってくだせえ!あいつは…」

こそこそと耳打ちをし、やめさせようとするが男は聞かない。

「こっちには木砲があるだろう!木砲用意!」
「おう!」
「撃てええ!!!!!」

愚連隊の一人が木砲に駆け寄り、ドゥン!と音を立てて発射させた。
見えたのは薫と弥彦の驚愕の顔。刀に手をかけ、目を見開き木砲を見据える。
刀を抜き、砲撃を切り捨てる。真っ二つに割れたそれが、左右に吹っ飛びそれぞれ爆発した。
の前に砲撃は無意味だ。

「この逆刃刀の逆刃は、人以外のものは容赦なく斬る。もう一度言おう、リンチなんて真似はよせ。」