喧嘩の黒幕、比留間兄弟再び




「だが、一つ答えてくれ。この喧嘩の仕掛人は比留間兄弟だな。」
「ご名答。よくわかったな。」
「この街で僕の素性を知ってる奴はそういない。」

男も歩み寄り、互いの距離は1M未満になった。
近くにくると、は背が低いことが露になる。それは彼の悩みであったりもする。
何せ、薫より少し大きいぐらいの背。いつになったら成長期が来るのかと常に思っていた。
だが、28ともなれば、成長期は過ぎ去ったことは嫌でも認めなくてはいけない。
そこまで考えて、余計な思いを振り払い、言葉を続ける。

「それに、さっきから板塀から薄汚い殺気が漂っている。僕はこういう殺気は嫌いだ。でて来い。」
「へえ、流石超一流の剣客。オイ、観念してでて来い。」

先ほどの形相が嘘のように、再び人のよさそうな笑みを浮かべて、
に続き板塀に呼びかけた。

「「出てこいって言ってるんだ。」」

次の瞬間には目をきつくして、少し声を低くして呼びかけた。
にいたっては逆刃刀に手をかけている。これはいけないと思ったのか、
暫くして、比留間兄弟がノコノコ現れた。

「よしよし。それでいーんだよ。さ、出しな。」
「は?」

喜兵衛の方が、素っ頓狂の声を出すが、すかさず男が伍兵衛の懐に突っ込んであるもの
を引ったくり、あ!と声を上げた。

「やっぱりな。俺は気なんて読めないが、てめえのような下衆の考えることはお見通しだぜ。」

グッ、と引っ手繰った銃を握り、ニヤと笑った。

「いいか、この喧嘩の売り手はお前たちだが買った以上は俺の喧嘩だ。ふざけた横槍は―――」

ガゴォン!と音を鳴らして銃が男の手により粉砕した。
煙と共にパラパラと破片が地面に落ち、見事に使用不可能になった。
喜兵衛は顔を歪めてその様子をじっと見詰めた。相変わらず、自分より強いものにはおとなしい。

「…喜兵衛。」

薫が、喜兵衛に何か言おうと呼んだが、喜兵衛はキッと表情を変えて「…この土地屋敷は必ず
頂くぞ小娘!」と言った。薫の顔が曇り、は薫をじっと見た。
こんなこといわれても、未だに喜兵衛の身を案じようとする彼女が不思議だった。

「ここじゃちょっと狭ぇな。広い河原にでも出よーぜ。」

左之助の提案に、河原へ移動することになった。



道中では、やけに長い武器を肩に乗っけて悠々と歩いている男に、やけにデカい男が
歩いていると言うことで、がやがやと周りから聞こえてくる。
前を行く比留間兄弟と喧嘩の男から少し距離を開け、たちは歩いていた。

「弥彦。」
「あん?」
「やっぱり、驚いた?」

つまり、自分の正体を聞いてどうだ、と聞いているのだ。薫はもとから知っているからいいが、
彼には道場に居候している流浪人で通していたのだから、突然聞かされた事実は少なからず
驚かされただろう。一緒に住むとなれば、いつか話すときがくるのだと思っていたが、思わぬ
事態がおき、知れてしまった。別にそれは構わなかった。本当の事だから。
だが、それを聞き、弥彦が何を思い、どんな気持ちで今のを見ているのかが知りたかった。

「…まーな。けど全然ピンとこねーよ。今更人斬り抜刀斎でしたっても、全然こわかねえし。
 むしろお前が鬼のように強くても当然だって、妙に納得しちまった感じだな。

なるほどね。はうっすら微笑みを浮かべ、薫も微笑んだ。