赤報隊、悪一文字、維新志士




「喧嘩第二章いくぜ!」

左之助は斬馬刀をなぎ払い、に攻撃を仕掛けるが、は忽然と消えていた。
目を見開くが、後ろから降りかかった声に、思わず冷や汗が流れる。

「斬馬刀は、その重さゆえに攻撃の方が限られるんだ。打ち下ろすか、なぎ払うか。だ。
 とても、読みやすい。」

いつの間にか斬馬刀の上に乗ったが、冷静に左之助に告げた。
その瞳に宿るのは、静かな闘志。

「第二章じゃない、終幕さ」

斬馬刀から跳び、右肩に一撃加える。着地すると同時に左之助が斬馬刀を振るうが、がしゃがんだために
避けられてしまう。

「斬左、君に一撃はきかないんだろ?」

左之助の目が大きく見開かれて、冷や汗がたらりと流れる。次にやってくる攻撃が、嫌でも想像できてしまう。
の顔が不気味に微笑んだ。

「なら」

目にも留まらぬスピードで、が飛天御剣流の連撃を浴びせる。
左之助の全身いたるところに攻撃をして、攻撃の手をやめた。

「飛天御剣流、龍巣閃。」

ドサッと音を立てて、左之助が仰向けに倒れた。ゴフッと血を吐き、実力の差を知った。

――勝てない。
相手は維新志士。やはり、一介の喧嘩屋では勝てない。
俺は何のために戦っているんだ?自己満足か?維新志士が許せないからか?
何で俺は許せないんだ?それは、相楽隊長が…赤報隊が―――――

「これ以上はもうやめだ。僕と君で戦うことに何の意味がある?おとなしく負けを受け入れてくれ。」

相楽隊長…。

相楽隊長…………。



「よく見ておけ、左之助。徳川三百年の支配が終わり、新時代の幕開けだ。」

相楽隊長は、とても優しい人だ。俺を拾ってくれて、赤報隊の仲間に入れてくれて。
隊長にだったらどこへでもついていける。隊長のためならなんだってできる。

「弱者が虐げられ、泣き寝入りするしかなかった時代が終わり、上も下もない、言わば四民平等の時代が来る。」

赤報隊は、もともと農民出身の奴らで結成された部隊。だから、皆弱者の辛さは知っているんだ。
力を持たない奴は、いつでも力を持っている奴に従わされ、利用される。
子供の俺でも判っていた。

「赤報隊は、その先駆け。」

この言葉は何度も聴いた。俺は、得意になってその続きを隊長よりも先に言葉を続ける。

「我らの働き如何でそれは一年後になるか十年後になるのかが決まるんだ。でしょ?もう耳タコっスよ!」

にしし、と笑うと隊長は呆れたように笑った。この笑顔は、俺を認めてくれている証拠だって、わかっている。
隊長は踵を返して戻っていく。俺も慌てて追いかける。

「ねえ隊長!世直しがうまくいって、名字を名乗れるようになったら俺、相楽って名乗っていいっスか?」
「相楽左之助か、よせよせ、変な名前になっちまう。」

振り返った隊長の微笑みが、俺の脳裏に焼きついた。


だが…。
赤報隊は、偽官軍の汚名を着せられてしまった。
年貢半減を言って回っていた俺たち。だが、政府には年貢を半減させる余裕なんてなく、偽官軍にでっちあげた訳だ。
とんだとばっちりだ…。しかも、俺たちが農民出身だから、丁度いいと思ったんだろうと言っていた。
やっぱり、弱者は…強者に虐げられる。

「総督府に盾突くわけにはいかん…。ひとまず、下諏訪の本陣に出陣しよう。…左之助、お前はここで待ってろ。」

当然俺も連れて行ってもらえると思っていたから、俺はビックリして口が聞けなかった。
どうして俺を連れて行ってくれないんだ?俺じゃ…力不足なのかな?

「お前は準隊士。それに、若い。ここから先に連れて行くわけには行かない。」

隊長だって十分若いくせに…。
それでも、俺は隊長を信じて待つことに決めたんだ。隊長なら、やっつけてくれる。
だって、隊長は強いから。だって、隊長は俺が唯一信じた人だから。



何日経っても、隊長は帰ってくることはなかった。
俺はただじっと待っていたが、とうとう隊長を追って飛び出した。隊長は確か、下諏訪に行くといっていたはず。
俺ひとりいった所で何も変わらないかもしれないけど、それでも力になりたいから。
隊長を助けたい。その一心で、俺は走り続けた。



「偽官軍赤報隊一番隊隊長相楽総三。年貢半減などと虚言を用いて人心を惑わしたかどにより斬首だと。
 英雄気取り維新志士様の真似はかまわねえが俺たちをぬか喜びさせるなってんだ全く、赤報隊。とんだ悪党だぜ。」

本当のことを知らないくせに…。本当の悪党を誰だか知らないくせに…。隊長を貶しやがって…!
維新志士なんて…政府なんて…。

悔しくて、悔しくて、拳を血が出るほど握り、涙を流した。
俺は…!俺は……!