救えぬ人





消えかかっていたな闘気が再び溢れてきた。まさか、これ以上戦うつもりなのか?
左之助の目がカッと見開かれたと思ったら、力が入らないはずの手に力を込め、拳を握る。

「負けられねえ…。」

地を這うような声。そうまでして、何故左之助は戦おうとするのか。何がそうさせるのか。
どうして傷つきたがる。どうして、どうしてなんだ?

「相楽隊長に俺たち赤報隊の悪一文字を背負わせ正義面しているてめえら維新志士には…ぜってえ負けねえ!」

赤報隊…!
その言葉に、がハッとした。なるほど、左之助は赤報隊の…生き残り。
それならば、総てに納得がいく。維新志士を執拗に憎むのも、何故戦おうとするのかも。

「死ね!抜刀斎!!」

の視界の隅で、喜兵衛が何かを懐から抜き取るのが見えた。
どうせ銃を忍ばせているのだろう。そして、を殺そうとする。つくづく救えない男だ。
銃から目掛けて弾が放たれ、一直線に来る。は逆刃刀をおもむろに振り上げた。

!!!」

薫の悲鳴にも似た声が聞こえた。
は銃によって飛ばされた身体を地面につかせ、踏ん張る。ボロッと柄が粉々になった。
つまりは、刀の柄で喜兵衛の弾を防いだということだ。これには状況を理解した皆が呆然とした。
矢張り、人斬り抜刀斎の名は伊達じゃない。薫は安堵に腰を抜かし、地面に座り込んだ。

「小賢しいな。失せてくれないか。」
「う、煩い!だったらこれでどうだ!?」

喜兵衛が銃を、薫と弥彦に突きつけた。二人はあまりの事に動けないで居る。いや、下手に動かれても困るが。
はギリッと奥歯を噛み締め、卑怯な奴め。と毒づく。

「おい伍兵衛!ガキどもを逃げられんようにしろ!」
「兄貴、縛ろうにも縄の持ち合わせが…。」
「だったら、両足を折ればいい。」
「…なるほど。」

ニヤ、と不気味な笑いを浮かべて拳を鳴らしつつ二人に近寄る。さあ、どうする。は頭をフル回転させる。
まず、喜兵衛の意識をなくし、そして伍兵衛を黙らせるか。と、考えた所で、弥彦が勇敢に立ち向かった。
だが薫の腰は抜けている。逃げられない。伍兵衛はますます不気味な笑みで「あがけあがけ」と嬉しそうに言う。
そこに、斬馬刀が飛んできて伍兵衛の頬をかすった。そして、地面に突き刺さった。

「あぎゃー!」

切れたところから大量の血液が吹き出た。伍兵衛の顔が痛みにゆがみ、出血の多さに顔を青くしている。
左之助がフラフラと立ち上がり、ギロッと睨みつける。

「言ったはずだぜ、これは俺の喧嘩。邪魔する奴は…ゆるさねえ。負けねえ…絶対負けねえ…!」

漲る闘志がゆらゆらと動く。左之助の顔は血まみれで、それでいて恐ろしい形相だった。
は左之助に少しばかり罪悪感を感じながらも、喜兵衛に歩み寄る。コイツは、生き地獄にあわせてやる。

「喜兵衛よ。君はつくづく救えない男だな。」

の”人斬り抜刀斎”の顔に一瞬怯むが、すぐにニヤと気持ち悪い笑顔を浮かべる。

「ほざけぇ!この至近距離なら今度こそ…!」

懐から二丁目を持ち出したところで、が逆刃刀で思い切り地面に斬りつける。
土が抉れ、吹き飛んだ石や土塊が次々に喜兵衛に襲い掛かる。

「飛天御剣流、土龍閃。」

喜兵衛がぶっ飛び、砂煙が舞った。少しして、喜兵衛が痛みに暴れ始めた。

「気絶しない程度にしてやった。せいぜい生き地獄を味わってみなよ。」

ニヤ、と口許を吊り上げると、痛みに顔を歪めた喜兵衛が何語かわからない様な言葉を発し、顔を抑える。
いい気味だ。生き地獄を味わい続けて、そして自分の醜さを知るんだ。

「本当の悪一文字は君みたいなのが背負うべきなんだ。…いや、維新志士かも、な。」
「…ケリをつけようぜ。」

斬馬刀を抜き、左之助が言う。

「最強の維新志士さんよぉ!!!」

のほうへ振り返り、も答えるように左之助のほうを向いた。

「相楽左之助…赤報隊の生き残り。…わかった、決着をつけようか。」

総てを終わらせて、そして始めるために。