姫と神官と魔法使いと私





アリーナ姫が今日もサントハイムの兵相手に修行と言う名の憂さ晴らしをしている。
その様子を、とクリフトが眺める。相変わらずの凄腕に、は思わず感嘆のため息をつく。

「姫…。素敵。」

姫の周りだけ輝いて見える。キラキラしていて、飛び散る汗すら美しく思える。
隣にいるクリフトも、姫様のファン。所謂ライバル。でも、ライバルは沢山いるの!
だって姫様は強いし、可愛いし、素敵だし、キラキラだし…!

そう、はアリーナ姫のファンだった。しかも、熱烈な。

「姫…。」

うっとりと呟いたクリフトをはジロリと睨む。

「クリフト、今日こそは私が勝つからね」
「いやいや、私だって負けませんから!」

二人の間に火花が散る。
そのとき…。

「さーて、今日はおしまいにしようかしら。」

麗しのアリーナ姫の声が耳にすっと入ってきた。その瞬間、とクリフトはすっと立ち上がり
持っていたタオルを振り乱し姫の許へ一目散。

「「姫さまあああああああああああああ!!!!!!」」
「今日も元気ねえ」

必死の形相でアリーナの許へ走ってきている二人を見て、アリーナが愉快そうに笑った。
傍に控えていたブライがやれやれ、とでも言いたそうにため息をついた。
二人の競争はいつものことだった。修行を終えたアリーナにタオルをどちらが先に渡せるか。
それを競っているのだが、対戦成績は五分五分といったところ。
今日はが優勢なよう。クリフトを数十センチ引き離している。だが、勝負は最後までわからないのだ。

「それにしても暑い暑い!」

アリーナが後ろ髪をウザったそうにふわっと浮かして首への風通しを良くした。
その姿を見て、が鼻血を大量に放出してその場に倒れた。

「はひ…つ、つみでふ…う…な…じ……」

どくどくと鼻から出る血を押さえつつも、鼻血は一向に治まらず、どんどんと鼻血の池を作っていく。

「でも…いいもの…みました……」


、貧血のためアウト。



その間に、クリフトはアリーナの許へ息を切らしながら走っていく。

――――今日は私の勝利!
ニヤつく顔を必死にしめる。そしてとうとう、クリフトがアリーナの許へ辿り着いた。

「はあ…はあ…姫!タオル、です!!」
「今日はクリフトね。ありがと!」

アリーナの笑顔を見て、クリフトはなんともいえない至福の笑みを浮かべた。
今日の結果は、クリフトの勝ち。
無事にタオルを渡し終えたクリフトは、肩で息をしながらもの許へと歩みだした。

、あの鼻血の量は異常でしたが…。」

の許へ行くと、おびただしい量の鼻血を出して倒れているがいた。
クリフトは血相を変えて慌てて駆け寄り、!と名前を呼び揺すると、意識を取り戻した。

「クリフト…。はあ、今日も負けちゃった。」
、この量の鼻血はとんでもないです!いいから、医務室に行きましょう!」
「う〜…。」
「ほら、私がおぶりますから。」

そういって、背中をに向けて、乗るように促す。だがは渋る。
クリフトの背中は、神官の服を着ていても判るほど、細く、自分が乗っては重さに耐え切れないのでは。
と思ったのだ。

「クリフトじゃ私をおぶれないわよ。」
「し、失礼な!私だって女性の一人くらいおぶれます!ほら、乗りなさい!」
「う…もう、しょうがないなあ…」

珍しく命令口調な彼に負けて、渋々はクリフトの背に自らを預ける。
やはりクリフトの背中は小さく、頼りない。

――どうせ、立ち上がれないんだ。

力のないクリフトじゃ無理だよ。
といってやろうと思ったそのとき、クリフトは意外にもすくっと難なく立ち上がった。
落ちたら困るので、思わずクリフトの首に回す腕に力が篭る。
クリフトからいいにおいがした。―――ああ、髪のにおいだ。―――不覚にもの心臓が飛び跳ねた。

「なんだ、軽いんですね。」
「ク、クリフト、意外に力持ちなのね…。」
「意外に、ってなんですか、私とて男ですよ?さ、行きますよ。」

クリフトは口は冷静を装っているが、顔は真っ赤だった。
なぜなら、背中に温もりを感じるのだ。それから、二つの柔らかいものも…。
初めての経験だった。女性を背負うのは。心臓は早鐘を打っている。

「クリフト…?」
「なっ!んですか?」

突然話しかけられたクリフトは、声が裏返りながらも、あくまで冷静を装う。

「ありがと。」
「…どういたしまして。」

普段自分をライバル視していて、決してありがとう、等と言う感謝の言葉を言わないが、
今自分に感謝の言葉を述べた。クリフトは更に真っ赤になった。

(血の巡りがやけに良くて、なんだかぼーっとしてきました……。医務室で少し仮眠をとらせていただきましょう。)
(血が回りすぎて頭が痛くなってきたわ…。医務室で少し寝よっと…。)



医務室で、カーテンで仕切られているが、隣のベッドで寝ているということで
暫く眠れなかったらしい。(・クリフト談)




「あの二人なんだかんだお似合いなのよね!どう思う?ブライ。」
「じいも同感でございます。」