教師





「今日はここまで。次はP124まで進むから予習しておくよーにっ。」

授業が終わり、生徒たちが伸びをしたり談話したりし始める。わたしは教科書を机にしまいながら、
ひっそりとカイル先生を盗み見する。整った顔のクセに独身彼女ナシ、それもそのはず…。
だってカイル先生の女癖の悪さは有名だもん。生徒の間でも有名って事は相当じゃない?

―――でも、そんなの関係ないの!わたし、カイル先生のこと、大分好きみたいな。

「あー、そだ。ちゃんは今日の放課後社会科講義室にくるように?」
「え!?あ、は、はあ…。」

呼び出し!?ま、まさか先生…生徒に手出しちゃうんですか!?
妄想が頭をよぎり、嬉しいような悲しいような複雑な気分…。でもまさか、いくら先生でも…ねえ?
そんなわけない、と思い、周りにやってきた友達と談笑し始めた。

だけど…。
休み時間中も、授業中も、お昼休みも、ずーっとカイル先生のことが頭から離れない。
これはいつものことだけど、今日はいつも以上にカイル先生が頭のウェイトを占めてる。
それもこれも…放課後の呼び出しが原因。なんだろう、ってずっと考えてる。
先生とふたりっきり、てことは、これはチャンス…なのかも?この呼び出しが他愛のない理由だったとしても
ふたりっきりになれるってことは、わたしの努力しだいでは何かアクションを起こす事だって出来るってことだよね!
がんばろ…!わたしが握りこぶしを握り一頻り頷くと、黒板をマッハで移し始めた。

+++

あっという間に時は過ぎて、いまわたしは社会科講義室前にいる。さっきからドキドキが止まらないですはい!
がらんと開きっぱなしになったドアからは真っ赤な夕日が差し込んでいて、遠くのほうからサッカー部やら野球部やら
ハンド部やらどの部かわからないけど、色んな声が聞こえてくる。心音が頭に響いていて、誰かがわたしの頭に
耳を当てたらきっと音が聞こえちゃうんじゃないかな、って思う。
わたしは勇気を振り絞って社会科講義室に入ることにした。講義室内は夕日で真っ赤に染まっていて、窓からはやはり
サッカー部やら野球部やらハンド部やらが見える。わたしは一番前の席に座って、先生を待つことにした。

数分経つとドキドキも少しは収まってきて、少々暇になってきた。暇をつぶすために窓側に行って運動部を眺めてる
ことにした。野球部はノックをしていて、時折取れるか取れないかの瀬戸際のボールを飛び込んでキャッチして
とっている。飛び込みってかっこいいなあ、ってぼんやり思う。サッカー部はゴールを使ってよくわからない練習してる。
ハンド部はなんかの宗教?って思っちゃうような動きを皆揃ってやってる。

…遅いなあ。

ちゃん♪」
「!?せせせ、せせせ!!」
「ナイスリアクション!!」

突然横にふと誰かが来て、慌てて横を向くとそこには長い金髪に澄んだ碧眼、高い身長整った顔の、
わたしが大好きなカイル先生が居た。わたしの慌てぶりを見てさぞかしおかしそうに手を叩いて笑っている。
うう、なんか自分が笑われてるのは嫌だけど、カイル先生の笑顔が見れたんなら…いっかな。
なんて思っちゃう自分は相当ヤバイ。なんか、恋する乙女だな〜わたし。

「もう…。」
「ごめんごめん、なんかちゃんなら面白い反応見せてくれるんじゃないかなーって期待してたんだけど、予想通り。」
「褒めてるんですか?」
「そりゃあ勿論っ。」

無邪気に笑う先生に、わたしの胸の高鳴りはノンストップ。ああ、なんでこんなに素敵なんだろ…。
悔しい、にくい、大好き!

「…それで、なんでわたしを呼び出したんですか?」

痛いほど高鳴ってる心臓をそのままに、冷静を装って尋ねれば、カイル先生は「ああ〜。」と再び笑った。

「あのね、ちょっとお話があるんだよね。」
「はあ…。」
「俺さー教師じゃん?」
「ええ。」
ちゃんて生徒じゃん?」
「…はい、」

まさかカイル先生、気づいてたのかな…。それで、わたしに…アキラメロ。って言うために、わたしを呼んだのかな?
だとしたら、もしかしたら接近できるかも、なんて考えてたわたしが恥かしいよ。

「こういうのはいけないんじゃないかなーって思うんだけどさ」

ほら、やっぱり。
あーあ。もうどうしよ、泣いちゃうよ?うまく笑えるかな、

「俺ね、ちゃんのこと気になっちゃうんだよねー!ははっ、俺ってきもい?」

相変わらずへら〜って笑いながら、カイル先生が…あれ、え?駄目なんじゃないの?それよりもいま
なんていったの?顔が、身体が、火照りだした。頭が理解できなくても、身体が理解してるみたい。
いま、せんせいは…

「せんせ…いまなんていったんですか?」
「えー?また言わせる気?しょうがないなあ…」

わたしの頭を、先生のおっきな手が撫でる。緊張するけど、安らぐ、先生の手…。

「俺、ちゃんのこと好き。」

ぴたっと撫でる手を止めて、きっぱりと言い放った。
先生が、わたしを、好き。
なんだか、涙が出てきそう。景色がぼやけて、やがて頬に暖かい雫が伝った。(わたし、泣いてるんだ。)

「ちょ、ちゃん!?ごめんね、そんなに嫌だった?」

先生は慌ててポケットからハンカチを取り出して、目元を優しく拭った。でも涙は止まることなく溢れ続け、
とうとう嗚咽を漏らすほど泣いてしまった。

「せん、せえ…!ほん、と?」
「え、あ、うん!ごめんね、ほんと。」

完全に動揺しきってる先生に、いつものへら〜っとした雰囲気はなくて、ちょっぴり可笑しい。
ああ、わたし、先生に好かれてるんだ。これってさ、両思いなんだよね?神様、神様、神さま…
いまわたしは、地球上すべてのものに感謝します。

「先生、わたしも先生のこと好きなんです。だから謝らないでください。」
「…え!?ほんと!?ちゃんそれホント!?」

目を見開き心底驚いてるカイル先生を見て、ふふっ、と笑うとカイル先生の頬が心なしか赤くなった気がした。
夕日のせいかな?でも、赤いのはわたしも一緒だから言わないでおくことにした。

「じゃあさ…俺、ちゃんのこと絶対幸せにするからさ、俺と付き合ってくれませんか?」

真剣な表情なカイル先生に、わたしが頷いた。

「はい、幸せにしてください…。先生、ホント大好きです!!」

夢のようなおはなし。でもわたしとカイル先生の本当のおはなし。