一段、また一段と階段を踏みしめる。そんも一段がとても重く感じる。
全く俺は何をやっているんだ。お人よし過ぎないか・・・。とため息をつく。

コンコン・・・
控えめなノックもそこそこに、入っていいですか?と部屋の主に扉越しに尋ねる。
主は大分間を置いて、どうぞ。と静かに告げた。こんなに緊張したことは、多分ない。
確信を胸に、ヘルムートはノブをガチャッと回し、重々しい扉をあけた。















愛を確かめるアフタヌーンティー









「ああ・・・頑張ってヘルムート」

祈るように手を組み、サロンの一角でヘルムートの無事、の誤解が解けるよう祈る
本当ならの部屋の前で待っているのもいいが、沈黙が支配するあそこでじっとヘルムートの帰還
を待つなんて無理だ。と、いうわけでサロンのすみにいるのだ。

は機嫌が悪いと、手に負えない。それはこれまでで学習済みで、その機嫌が悪いの元に
自ら向かったヘルムートは、最早英雄。もう伝説築いちゃっている。

「お、じゃないか。どうしたんだ?」

サロンにやってきたハーヴェイがに気づき、声をかける。
不安丸出しの顔ではハーヴェイたちの名前を呟き、それが・・・と経緯を話し始めた。

「なるほどな・・・じゃあ、から奪っちまうかな。」

ニヤ、とハーヴェイが満更でもないように囁く。は反射的に顔を赤らめて、「やめてよ」と
小さく呟いた。それでも引き下がらないハーヴェイは、もっと近寄り、顎を持ち顔を自分に向けさせる。

「何気に本気だぜ・・・?どうだ、俺の女になんねぇか?俺ならそんな事させないさ・・・絶対に」
「気持ちだけで十分。それに、あたしは一筋だからねっ」

胸を押し、ハーヴェイから逃れようとするが、ハーヴェイはそれを許さなかった。
を抱きしめて、耳元で優しく囁く。

「浮気って興味ないか?」
「ないっちゅーねん!!」

今度は本気でハーヴェイの胸を押すと、呆気なくハーヴェイから逃れられ、拍子抜けしたが、
てくてくとサロンを去っていった。その様子を見ていたルイーズは、怪しげな笑みを浮かべていたとか。



場所は変わって、甲板。甲板には暖かな日差しが差し込んでいて、風が頬を撫でる。
髪はあっという間に風にかき乱され、思わず髪を押さえる。
甲板でのんびりと海を眺めていたり、うとうとと眠りそうな人もいて、人それぞれといったところ。
手摺に肘を預け、ぼーっと蒼く深い大海原を見つめる。

どうしてこんなことになっちゃったのかな・・・。

勘違いがどんどんと溝を深めちゃって、挙句には拒絶。大好きな、大好きな、愛しい人に
拒絶なんてされて、落ち込まない人は存在しないだろう。

早く、仲直りがしたい。
そして、いつも通りの優しくて、でも甘い声、穏やかな笑顔で””と名を呼んで欲しい。

いつの間にか、なくてはならない存在になっていた
おかしいよね。本当は出逢う筈のなかった人だったのに。

は深く項垂れ、ため息をつく。

!」

自分を呼ぶ声。
この声は、何より一番求めていた声で。

自分の名を呼ばれると何処かくすぐったくて、
自分の名を呼ばれると嬉しくて、
自分の名を呼ばれると笑顔になる。

そんな声。

!!」

声を聞いた瞬間に顔を上げ、声の主を確認する。
声の主はあっという間にを包み込むように抱きしめ、何度も名を呼んだ。

「ごめん・・・僕、誤解してたよ。本当にゴメン、恋人失格・・・だよね。」
「そんなことないよ!あたしこそ、紛らわしい事しちゃってごめんなさい。」

ぎゅっと、きつく抱き合った二人の姿に、のんびりと海を眺めていたり、うとうとと眠りそうな人も
思わず目を見開き凝視する。
凝視されている二人は、その視線に気づかずずっと抱き合っていて、そこだけ時が止まったかのように
ずっとずっと抱き合っていた。

「ヘルムートから総て聞いたんだ。ワケも知らなかった僕が、邪険な態度なんてとっちゃって・・・
を探し当てるまでずっと後悔の嵐だった。ヘルムートに怒られちゃったよ。そんなんじゃ、
恋人失格だってね。」

思い出したようにに言うと、はくすぐったそうに笑い、感謝だね。と目を細めて言う。
海からの光が反射しての目がキラキラと輝く。

「これからは、何があっても君の事を疑ったりなんてしない。」
「ありがとう・・・」

どちらともなくキスをして、にこっと微笑み合うと、手を絡めて甲板から去っていった。

「今日は一日デートしよう。何処いく?」
「うーん、と一緒に入れるなら何処でもいいよ」
「僕も、と一緒にずっといたい・・・。」
「じゃあ、紅茶を飲もう。前から、一緒に飲みたいっていってたよね?」
「うん!アフタヌーンティーだね!!」