赤い糸か否か




彼に会った瞬間、私の胸はドキンと深く脈打ちました。痛いです。
初めて会ったのはいつだったか、確か、武田との親睦のために、彼が甲斐にやってきたときです。
宴会の席で、お義父様の隣に座っていた私のところにやってきて、こう言ったのです。

「Oh,これが信玄公の娘かい。噂には聞いていたが、本当にBeautifulだな。」

ニヤ、と口許を吊り上げて言われました。びゅーてぃふる?と言うのはどういう意味なのでしょう。
「あの、びゅーてぃふるとは…?」と政宗様に尋ねると、「美しいって意味だぜ。」と微笑まれました。
それを聞いた私はぽかーんとしてしまい、頭の中が真っ白になりました。噂って…どういう噂でしょう…
お義父様が豪快に笑い、私の頭をがしがしと撫でました。ちょっぴり痛いです。

「そうだろうそうだろう!武田の華よ!だが、政宗公には悪いがまだは嫁には出さんぞ。」
「Oh,そうかい。じゃあ、出せるようになったら知らせてくれよ。俺がすっとんでくるからよ。」

パチッと片目を瞑り(といっても片目しか出てませんが)、政宗様は屈んで、スッと
小指を差し出してきました。私がきょとんとしていると、政宗様はニッと笑って説明をします。

「小指と小指を絡めて、約束しようぜ。」
「はあ…。」

指きりげんまんのようなものでしょうか。

「ほらほら、」
と、政宗様が諭すので、私は慌てて政宗様の小指に自信の小指を絡めました。
ぎゅっ、と握られた小指に熱が伝わり、火照る私。そんな私を見て、面白そうに笑う政宗様。

「これで、繋がったな。」
「へ?」
「赤い糸、だよ。知らないのか?」
「い、いえ知っていますけど。そうじゃなくて…」

まさか政宗様のお口からそんな言葉が出てくるなんて、と思いまして。
私ははにかみつつも、「そうですね。」と頷きました。

「どんなに離れてても、俺たちゃ結ばれてるぜ、な?そうだろ、…?」

早速呼び捨てです。男の人に初めて名前で呼ばれました。(お義父様は別です。)

「はい。…では、いつか私を迎えに来てくれるんですか?」
「勿論だ。繋がった赤い糸を手繰り寄せて、な?」

これが赤い糸かどうかは判りませんけど、政宗様は私を迎えにきてくれると申しています。
誰にでも言う台詞なんでしょうか?それとも、武田の姫である私と結婚したいのか。
…真意はわかりませんが、政宗様を信じてみたいと思う気持ちが確かにこの胸にあります。

「こらこら、政宗公。の気持ちを聞いてからにしないか?」

お義父様が笑うと、政宗様は「それもそうだな。」と頷き、ずいと顔を近づけてきました。
整った顔を間近で見てしまい、私の顔が赤くなりました。あんまり近くに来ないでくださいっっっ

は、どうなんだ?俺じゃイヤか?」
「へっ!?そんなわけありませんっ。寧ろ…政宗様を慕っていると…って何言ってるんでしょうか。」

次々と自白している自分にびっくりしつつ、目の前で口を吊り上げる政宗様を見て、再び
赤みが戻ってきました。赤面症なのでしょうか。

「HAHA,聞いたか信玄公。」
「おお、まことか。…なら話は早い。恋仲になるといい。そして、気持ちが固まったら
 祝言を挙げると良い。まだ、お互いの事を全然知らないのであろう?」

そう提案するお義父様に「判った。」と政宗様は言い、こちらに向き直った政宗様は
私の頬にせせせせ、接吻をしました。

「よろしくな、。」
「はははははひ!よろしくおねがいしますぅ!」

こうして、私たちは恋仲になりました。



「Oh、どうしたんだ?考え事か?」
「あ、政宗様。はい。私たちが初めて出逢ったときを思い出してました。」

いまや私たちは、夫婦。縁側で思い出に耽っていた私の隣に腰掛けて、
私の肩を抱きました。

「HAHA,成る程な。でも、本当だったろ、赤い糸。」
「そうですね。でも、政宗様からそんな言葉が出てくるとは意外でした。」
「そーか?」
「はい。」
「ところでよ、耳かせ。」

言われたとおり、耳にかかっていた髪をかけて、「どうぞ。」と耳を貸します。
間も無く政宗様の顔が近づいて、ソッと一言告げました。

「愛してるぜ。Myhoney…。」

今も昔も変わらないのは、私がすぐ赤くなること、と、私たちの心です。