俺はあの時死んでおくべきだったんだって、今気づいた。





俺は昔一度、死にかけたことがあった。
いつだったか、とある国が太陽宮に夜襲を仕掛けてきたのだ。まだ少年であったが女王騎士である俺は
必死に女王と、姫を護った。彼女たちを護るのに夢中で神経を研ぎ澄ませていたのだが、不覚を取られた。
脇腹にグサリと鋭利な刃物が入った。とんでもない量の血液があふれ出て、あまりの痛さに痛みを感じなかった。
すぐさま刃物を抜かれ、フラッとバランスを崩した所でもう一突きされた。またも、鮮血があふれ出る。
一気に身体から血液が抜け出し、意識が朦朧とし始めた。だが、ここで倒れる前に敵を一人でも減らさなければ。
と思い、主君のために命を捨てる覚悟で自分を刺した敵を切り倒した。

武士道とは、死ぬことと見つけたり。といつだったか読んだ本に書いてあった。
主君のために死ねるって、いいかもな。とぼんやりと思った。だって、名誉だろう。
でも、年齢が近いため幼馴染として今まで接してきた姫様にはきっと怒られるだろう。

「わらわのために命を捨てるな!」

と。
彼女はいつでもそうだ。自分のために何かしてもらうことを嫌う。その彼女のために、俺は自分の命を
捨てようとしているのだ。きっと、大激怒だ。…ごめんな。俺、もう……キツい。

そして俺は意識を失って、もう意識を取り戻すことなんてないと思った。
だが、俺は目覚めた。姫ことアルシュタートに顔を覗きこまれていて、俺はぼんやりと「生きてる?」と口にした。
起き上がろうとして両手をつき、力を入れた瞬間両脇腹に並々ならぬ痛みが走った。
「…っ」と声にならない悲鳴を上げる。アルシュタートは慌てて俺を寝かせて、「無理しないでください。」と目に
涙を浮かべて言った。

「俺、生きてるんだ。」
「殆ど死んでる状態でした…。」
「…ふーん。」

聞けば、俺が倒れたあと形振り構わずアルシュタートが俺のところに来て、助け出したらしい。
馬鹿だな。姫様なんだから、女王騎士なんて構うなよ。まだ刺客がいたらどうするんだっての…。
と思ったが、そんなこといったら「けが人は黙っててください!」と一喝されるのがオチなんで言わないでおく。

「心配、したんですから…」
「ごめん。そしてありがと。」
「二度と私のために命を懸けないでください!」
「いや、こればっかりは譲れないよ。俺は女王騎士なんだ。主君のために命を懸けるのは当たり前だろ?」
「では命令をします。主君のために命を懸けないでください。」
「俺の主君は女王様だ。」

アルシュタートが言いたいことはわかる。でも、女王騎士と言う役職の以上、無理なんだ。
だから、少しきつめの口調で言う。

「…そう、ですね。では、では、約束してくれますか?」
「何をだ?」
「わらわと結婚してください。」
「…は?」

突然何を言い出すんだ、と思った。
でも、俺はアルシュタートに幼馴染とは違う感情を抱いていた。これは、事実だ。…だから、今の告白はとても嬉しい。
だが、何れ彼女はトーシン祭とかいうやつで優勝したヤツと結婚するんだ。

「お前、自分が何言ってるのかわかってるのか?」
「…っ勿論ですよ!」
「本気で言ってるのか?」
「はい!」
「…じゃあ俺から言わせろ。好きだ、結婚しろ。」

言わせろ、と言うかもう彼女の方から先に言われたのだから言わせろも何もないが。
なんとかなるかもしれない。と思った。彼女と俺なら、古いしきたりなんて変えられるかもしれないって思った。
そしたら、結婚しような。アル。


…だが、無理だった。しきたりは変えられず。アルはフェリドと結婚して、今じゃ子供も二人生まれている。
俺のほうは色んな女性にお付き合いのしたいと申し込まれたりしたが、全部断っている。
所詮俺はアルじゃないと駄目なんだ。

どうせなら、あの時死んでれば良かったって、今では思う。
あの時は生きてることに感謝した。アルと幸せになれるから。
今はアルにとって、俺は邪魔なんじゃないかって思う。マジ、生きてる価値ないな。
疼きだした脇腹の二つの傷に苦い顔をしつつも、今日も俺は剣を振るい続ける。