BLUEBIRD
-青い鳥、人間になる-





風を切って空を舞い上がる青い鳥。青い鳥は昔から幸せを呼ぶとされている青い鳥。
その空を翔る様は実に優雅で、その鳥を見た人たちは、ありがたや、と口々に呟きました。

青い鳥はその日、夢を見ました。
神様が、青い鳥に頼み事をしたのです。青い鳥は快く引き受けました。
青い鳥は鳥から人間になりました。青い髪の毛を二つに結った、小柄な女の子です。
青い着物に、それに栄える白い肌。そして、青い鳥は鳥だった頃の記憶をなくしました。
それと同時に、神様から頼まれたことも記憶からなくなってしまいました。
覚えていることは、神様に何かを頼まれたこと。そして、自分は青い鳥だったことの二つだけです。



青い鳥だった少女は目を開けました。

「…そ、ら?」

空が見えました。目が覚めたときに、空が見えると言うことは今までなかったので、
少女は驚いて目を何度も瞬きました。

「本当に人間になってしまったのね。」

自分の身が今までどれだけ身軽だったのかを、今知りました。
地に足を着いて歩くなんて、本当に出来るのかしら。と少女は心配になります。
手をついて立ち上がり、あたりを見渡します。空は見えません。かわりに、沢山の木が見えます。

「ここはどこなのかしら。」

神様からの頼まれごとは、もう頭の中からいなくなってしまいました。
何を頼まれたのかを必死に思い出そうとしつつも、その足を動かし始めました。
ぎこちなくも一歩一歩踏み出して、あてもなく歩き出しました。
歩くのも慣れてきた頃に、前から物音が聞こえてきました。少女は音のするほうへと誘われるように向かいます。

「はあ!」

気迫の篭った声が聞こえると、目に見えない何かが少女に襲い掛かりました。
これが、”殺気”。直感で感じ取りました。少女は腰が抜けてしまい、地面にへたっと座り込んでしまいました。

「誰だ!」

厳しい声。少女は涙をこぼして鳴咽を漏らします。単純に恐かったのです。殺されるかもしれない。と感じました。
「誰だと聞いているのだ!」

再び聞こえてきます。
やがて痺れを切らした男が、少女のところへやってきました。

「…主、どこの国のものだ?そんな奇妙な髪色のものを見たことがない。」

男は整った顔立ちをしていました。燃えるような赤い服をきています。少女とは正反対の恰好です。

「…国がわかりません。」
「はぁ?国がわからない?お主、自分の住む国も判らないのか?」

怪訝そうな顔をして男が尋ねます。ですが、少女は本当に知りません。
悠々と空を飛ぶ、青い鳥だったのですから。鳥だったころの記憶もなければ、人間の基本的なことしか
わからないのですから。(神様はどうやら基本的なことを肉体にいれておいてくれたようです。)

「記憶がないのか?」
「はい。」
「信じてもいいのか?」
「どうぞ。」

男は少し考え込みました。

「名は?」
「ないです。」
「じゃあ…今日からお主はだ。よいな?」
「はい!」
「俺は真田幸村。よろしく頼む。」

こうして、と名付けられた青い鳥だった少女は、真田幸村に仕えることになりました。
幸村は城へを連れてきてくれました。途中、「歩き方が変わってるな」と指摘されて、はびっくりしました。
自分では普通に歩いていたはずなのに、と思うと恥ずかしく思いました。

「ここが城だ。さ、お館様に会うぞ!」

案内されたところは、とても大きなお城でした。はその景観に圧倒されつつ、幸村についていきました。