Brand New Morning
-同化-






やがて淡い光抜き取られたと同時に、謎の男がロビンの胸から鎌を抜き取る。
刹那、まるで崩壊したダムから水がふき出るように鮮血が溢れ出た。見事なまでな紅が、地面に水たまりを作る。
そしてロビンはゆっくりとあお向けに倒れていく。それがにはスローモーションに見えた。
ドサッと言う音が聞こえた瞬間弾かれたように泣き叫んだ。

「きゃあああああああ!!!!お兄ちゃん!!!」

慌ててロビンの頭を持って、自分の太股に乗せる。ロビンはつらそうに顔を顰めている。
胸からは脈打つたびに血が吹き出て、の太股までも染めていった。

「ごめんね…お兄ちゃん。馬鹿で、ごめんね…っ!そんな都合いい話あるわけないのにね…!」

少しでもやつを信用した自分が憎かった。すっぱり交渉を切っていたらこんなことにはならなかった。
それもこれも自分の甘さのせいだ。悔やんでも悔やみきれない事をしてしまった。
かけがえのない人を失ってしまった。自分にとって唯一の太陽だった人を。

自分のせいで、失ったんだ。

…?泣か、ないで?大丈夫。わかってたから。」
「わかっ、てたって…?」
「こうなることを、だよ。そんな顔、しないでよ?間もなく僕の力はのものになる。よかった…ね。」
「よくないよ!お兄ちゃんがいなくちゃ意味がないんだよ!?ねえ…ねえお兄ちゃん!」
「僕はね…のお兄ちゃんで本当によかったよ。」

ロビンはゆっくり瞳を閉ざした。

「お兄ちゃん!!!!!」
「動かないでくださいネ。いきますヨー」

謎の男が、鎌を振り上げた。月光に妖しく鎌が光る。
は目をギュッとつぶった。私も死ぬ。でもお兄ちゃんと一緒なら怖くないよ。
生まれ変わっても一緒に生まれてこようね。お兄ちゃん。お兄ちゃん。


鎌がの肩に突き刺さった。鈍痛が肩から全身に行き渡る。だがそれは一瞬の
事で、その痛みは次第に和らいでいった。そして温かい何かが入り込んでくる感
じがする。これは…お兄ちゃんだ。確証はないが感じる。今に入り込んでいるのは紛れもない、ロビンだ。
身体が感じ取っている。

「お、兄ちゃん…。」
「妹サンの身体にお兄サンが入り込みましたヨ。ネ、同じになったでショ?ククク」

気に障るような笑い声に、の顔が険しくなった。こんなこと、望んでいなかった。

「お兄サンは交渉の途中で、気づいていたようですネ。こうなることを。でも、あえてこうなることを望んだ。
 どうしてだかわかりますカ?」
「…。」
「アナタが望んだからですヨ!アナタが欲しがったから、自らの身を捧げたんですヨ!!」

そんな…!
ロビンは、のために死を選んだと言うのか。ロビンの顔を見て、顔をしかめる。どうして、そんなことするの。
間接的にではあるけど、自身がロビンを殺した。どうしようもない罪悪感。いや、罪悪感なんかでは言い表せない。
自分に対する激しい嫌悪。後悔。

「私のために、私なんかのために、どうして…!」
「アナタが好きだからじゃないですカ?クククッ!と言うわけで、この人の魂はいただきますネ。」

ロビンから、スッと離脱した白っぽいロビンが、出てきて、謎の男に取り込まれていった。
何が起こったのかはなんとなく察せた。魂が、奪われたのだ。つまり完全にロビンは死んでしまった。

死んだものは、還らない。

「それじゃあ、バイビー!」
「まっ…!返して!お兄ちゃんを返してよ!!」

だが、その声虚しく謎の男は既に忽然と姿を消していた。

私が、お兄ちゃんを殺した…。ごめんなさい、ごめんなさい。謝っても謝りきれないことを、してしまった。

、そんな顔しないで。これは、僕が望んだこと。』

頭の中に、ロビンの声が響いた。
太股で瞳を閉ざしたロビンは、微動だにしていない。

「お兄ちゃん…!?」
『僕とは一緒になったんだ。これって凄いことだと思わない?僕は、の中でずっと見守っているから。』
「ヤダよ!一緒に修行しようよ!一緒に…ねえ!」
『これ以上話しかけることは無理みたい、それじゃあね?は頑張るんだよ。』
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!!返事してよ、お兄ちゃん!!!!」

それから、ロビンの声は聞こえてこなくなった。は涙を拭いて、ロビンを地面に横たわらせる。
ロビンは能力として、の中に入り込んだのだ。ロビンの声が心に話しかけてきても不思議ではないのかもしれない。
魂は持っていかれたが、それでもロビンの総ては失われていない。

「お兄ちゃん、私聖都ウェンデルに向かう。それで、お兄ちゃんを生き返らせる方法探してくる。
 奪われた魂を奪還するために、頑張るから。応援しててね。」

意識がない人と言うのは、とても重くなってしまう。しかも相手は男なので、大分梃子摺ったが、なんとか
近くの樹に背を預けさせた。

「ここならあんまり人が来ないから、いいよね。」

顔だけ見れば、とても死んでいるとは思えないけど、死んでいるんだ。でも、認めたくないから
埋めたり、焼いたりしない。兄の形見となった、フレイルを兄から受け取り、大事そうに抱える。

「いってきます。」

こうして、の旅は始まった。