-光の司祭-




光の神殿は遠目から見ても凄い、と感じるが、間近で見ると益々絢爛で、思わず息を呑んだ。
「すごいね…。」

と本当に驚いたように呟いたのはだけで、他のメンバーは程驚いてはいなかった。
それもそのはず。シャルロットはここの司祭の孫だから、ここが家のようなもの。
リースは風の王国の姫。デュランはフォルセナ王国の傭兵。アンジェラは魔法王国アルテナの姫。
普段からこのような豪華絢爛な建物は見慣れているのだ。それに気づかずに、はひたすら目を輝かせて
きょろきょろしていた。

「シャルロットはここで待ってるでち…。」

彼女は司祭に黙って出てきてしまったため、神殿の近くで待機になった。見張りに気づかれないような茂みに
こっそり隠れて、小さく手を振った。

「じゃあ、行くか。」

デュランを先頭に歩き出した。



祭壇まで辿り着くと、光の司祭が静かに佇んでいた。その空間だけ、周りと違う気がした。
ひどく神聖で、ひどく美しい。は初めてやってきたこのような場所に、少し戸惑った。
止まることなく進み続けるデュランたちに続き、も黙ってついていった。

「いかがしたかな?」

光の司祭が、すべてを包み込むような、まるで光のようなあたたかい笑顔を浮かべた。
その姿を見て、アンジェラが「案外普通なおじいちゃんね。」と小さく呟いたのを、はしっかりと聞いた。

「あんたが光の司祭か!?さあ、オレにクラスチェンジの方法を教えてくれ!オレは、強くなりてえんだ!!」

デュランが訴える。
だが、光の司祭は表情を変えずに首を横に振る。

「やめておけ…おぬしでは、まだまだ経験不足…とてもクラスチェンジなどできん。」

厳しい現実に、デュランの顔が歪んだ。ぎゅっと拳を握り、そんな…。と唐牛で声を漏らした。
デュランを心配そうに見やり、大きく深呼吸をして次にリースが口を開いた。

「私はローラント王国の王女リースです。ローラントはナバール盗賊団におそわれ、王が討たれ、弟のエリオットも
 さらわれて、国は滅んでしまいました…。国を、そして、父を守る事ができなかった私は、この命にかえても、
 弟のエリオットを助け出したい…司祭様、どうかお導きを…」

リースの身の上話に、の心は痛んだ。彼女もまた、失ったのだ。最愛の人を…。
にはわかる。大好きな人を失う苦しみが。自分も思い知ったからだ。
司祭はリースの話を聞き、なんと!?と声を荒げた。

「ローラント王国が…滅んでしまったのか。しかし、こればかりはマナの女神様でもない限り…。
 一度滅んだ国を再建するのは、難しい…。」

司祭の痛々しげな言葉にリースの顔があからさまに曇った。デュラン同様、辛い現実の打破ができずに
居た堪れないのだろう。司祭の顔も暗くなり、一同に沈黙が流れた。こんな空気の中で、兄の話をするのは
かなり辛い。だが、ここで黙ってしまったらなんのためにやってきたのかわからない。は覚悟を決めて口を切る。

「私は湖畔の村アストリアに住んでいたという者です。」

アストリア、と言う単語に司祭の顔がしかめられた。彼もまた、アストリアの惨劇を聞いたのだろう。

「私のせいで兄の魂が、奪われました。兄の能力は私の身に宿っていますが…。
 兄の魂を取り戻したいんです!どうしたらいいんでしょう…?」
「不思議な話じゃな…魂が奪われたと。じゃが、何者の仕業なのかがわからん限りなんとも言えんな…。」
「そんな…。」

絶望がを襲った。何ともいえない脱力感が体中に漲り、今にも倒れそうだ。
ロビンの魂を取り返さなければいけないのに…。かすかな希望を頼りにやってきた聖都ウェンデルで
道を見失ってしまった。いままではウェンデルに行けばなんとかなる、と心のどこかで思っていたから
心を軽くして旅路を続けられたが、そのウェンデルで希望が絶たれてしまったのだ。

そのとき、フェアリーがから出てきて、司祭の前に躍り出た。

「司祭様、私はマナの聖域からまいりました!世界からマナが減少し、聖域のマナの樹が枯れ始めています…」
「何と!大変じゃ!!マナの樹が枯れれば、マナストーンに封印されし神獣達が目覚め、世界は滅んでしまう!」
「…なんのこと?」

がきょとんと首をかしげる。

「なにを他人事みたいに言っておる。おぬしはフェアリーにえらばれし者。おぬしが聖域に行って
 マナの剣をぬかねばならぬのじゃぞ!」
「ええ!?なにそれ、フェアリー!きいてないけど!?私、お兄ちゃんの魂を取り返すしかないの…。
 だから、他の人を探してちょうだい。」

フェアリーには悪いが、正直マナの減少など、よくわからない。それなのに、マナの剣を抜けなどごめんだ。
自分には、兄の魂を奪い返すと言う、大事な義務があるのだ。死んでも、絶対取り返さなくてはいけない。

「それができたら苦労できないわ…。私たちは、宿主を選ぶと、死ぬまで離れることができないのよ。」
「そ、そんなあ…。」
「マナの剣を手に入れれば、お兄さんの魂を取り返す事だってできるわよ。」
「マナの剣って一体なんなの…?」

さきほどから何度も現れる、”マナの剣”と言う聞いたことのない単語。
そのマナの剣は、凄い剣なんだと言うことはわかる。だが、それが一体なんなのか、ちっとも掴めない。

「マナの剣…それは全ての精霊をつかさどる古の力の象徴…。「マナの女神」が、世界の創造に用いし、
 「黄金の杖」の仮の姿…。「マナの剣」を手にせし者、世界を支配しうる力、あたえられん…
 その剣、今なお、「マナの樹」の根元に、ひそかにねむらん…マナの樹が完全に枯れてしまう前に、
 マナの剣を抜く事ができれば、マナの女神様は再びお目覚めになって、世界をお救いくださり、
 望みもかなえてくださるじゃろう…。」

つまり、マナの樹に突き刺さるマナの剣を抜けば、マナの女神が目覚めて、世界を救い、望みを叶えてくれる。
デュランのクラスチェンジも、リースの弟を救うこと、国の再建、そして、兄の魂の奪還。すべて、叶うという事。

「私、いくよ。」
「俺もついてくぜ。」
「私も、行きます。」
「私もいくわよ!」

デュラン、リース、アンジェラが、先ほどの暗い顔とは打って変わって頼りがいのある笑顔を浮かべてを見た。
彼らがいてくれれば、マナの剣を引っこ抜くなんて容易い気がする。
彼らとの付き合いは日が浅いが、まるで昔からの友人のように思える。それはだけでなく、皆が思っているだろう。
は大きく頷いて、「ありがとう!」と満面の笑みを浮かべた。