いくつかの物語をプレゼントしてあげる




眠れない…。
随分と前にベッドに入り、何度となく寝返りをうったが、いつまで経っても眠れない。
パチッと目を開けて、は眉を寄せる。どうして寝れないのかしら。

こんな夜は、愛する彼の許へ行けば大丈夫。
そう思い、私は夜な夜な彼の許へと急いだのだった。



コンコン、と夜のお城にノックの音はよく響いた。
間も無くして、扉のおくから「誰だ?」といくらか声のトーンを低くしたの声が聞こえてきた。
「私よ、。」と名乗ると、扉はあっさりと開き、が現れた。目をパチクリさせて「どうしたの?」
と尋ねられた。

「なんだか眠れなくて…。」
「なるほど。それで、僕のとこにきたんだ?」
「そうそう。」
「わかった。はいって。」

そういっては私を部屋へと招きいれた。
扉がパタンとしまったと同時に、顔をのほうへ向けさせられる。綺麗に整った顔。
私はの顔に見惚れる。そして、優しく唇を奪われる。

一度唇が離されたと思ったら、彼は今度は深いキスを求めた。
舌が私の口内に入ってきて、舌と舌が絡み合う。乱れる呼吸。

暫くして、やっと唇が離された。銀の糸が私とを繋ぎ、やがて絶たれた。

「なんだか久々にした。」
「そうかも。」
「さ、じゃあ。寝よっか?」
「うん」

そうして私とはベッドへ入った。微かに温もりの残るベッド。この温もりは、のものなのだろう。
そうやって思うと、少し安心できた。ああ、あったかいなぁ…。
私が枕に頭を乗せると、が布団をかけてくれて、間も無くも枕に頭を乗せた。
枕はの髪の匂いがふわっと香ってきて、思わず微笑む。

「何笑ってるの??」
「秘密ー」
「ひどいなぁー。」
「ふふっ、じゃあおやすみ。」
「おやすみ、。」

そうして、目を閉じた。




…やっぱり眠れない。
隣のは既に眠りの世界へ向かったらしく、規則正しい寝息が聞こえてくる。

私は、の手を手探りで探し出し、そして繋いだ。
こうすれば、安心できて眠れる気がする。
の大きなてのひら。あったかくて、安心できるてのひら。の婚約者でよかったなぁ。と思える。

「…眠れないのかい?」
…?起きてたの??」
「いや、寝てたけどさ。さっき起きたよ。」
「…ごめん。」
「謝んないで、眠れないんでしょ??」
「うん…なんでだろう。」
「僕が、いくつかの物語をプレゼントしてあげるよ。」
「え?」

突然の申し出。私は困惑しながらも、「じゃあ、プレゼントされるね。」と少し笑った。

「これは小さい頃、誰かに聞いた話なんだけどね…。」

初に『闇』があった。『闇』は長い、長い時の狭間に生きていた。

『闇』は余りに長い間寂しさの中で苦しんだ為に、遂に『涙』を落とした。

『涙』から二人の兄弟が生まれた。『剣』と『盾』である。

『剣』は全てを切り裂くことが出来ると言い『盾』は如何なる物にも傷つけられないと答えた。

そして二人は戦うこととなった。戦いは七日七晩続いた。

『剣』は『盾』を切り裂き、『盾』は『剣』を砕いた。

『剣』の欠片が降り注ぎ空となった。『盾』の欠片が降り注ぎ大地となった。

戦いの火花が星となった。

そして、『剣』と『盾』を飾っていた二十七の宝石が『二十七の真の紋章』となり、

世界が動き始めたのである。


が私に聞かせている間に、私の意識は夢の世界へといった。
まるで、お父さんが子供に絵本を読んであげているような感じで、とても心地よく、安心できた。


すべて語り終えたが、?と呼びかける。
だが、かえってくるものは規則正しい寝息だけ。やっと寝れたんだ。は少し微笑む。

「おやすみ。次は夢で会おうか。」

最後まで離される事のなかった手をぎゅっと握り、も瞳を閉ざしてに会うために眠りに付いた。