破天荒な奴来る!
-伊達政宗と俺-



ひえ〜。迷っちまった。鬱蒼と生い茂る木々に、ところどころ差し込んでくる光。
こんなところにはきたことがない。は次第に不安を覚えた。

「くっそ〜、全部佐助のせいだぞチキショ…。」

は数刻前に起きた出来事を思い出した。

ちゃん!おーはよっ』
『…んぅ…ってオイ!!朝っぱらからなんだこの状況!?』

朝起きて、目を開けると、そこには馬乗りになった佐助が居た。なんでー!!
しかも両手首を捕まれてて身動きが取れない。

『どういうつもりだ佐助!』
『どういうつもりって、俺様の口から言わせるつもり?』
『お前の口から言わせずに、誰の口から言わせるんだよ!!』
ちゃんてば、えっちなんだから!』

何処がだっての!はなんとか両手の自由を掴み取ろうと必死になったが
(それに比例するように足もジタバタ動いた。)結局自由はとれない。

『離せ佐助!幸村に言いつけるぜ!』
『え、別に良いよ。』
『えー!?ちったぁ焦ってよ!』

ともかく、この危険な状況をどうにかしなくてはいけない。どうするか、どうするか。
佐助の顔が近づいてきて、ドンドンと佐助が視界いっぱいになっていく。

『ひぎゃー!』
『ふげー!』

最終手段、頭突きをかます。きいたらしく、佐助はパッと手首を離しデコを押さえる。
だが、自分へのダメージも計り知れなかった。まさに諸刃の剣ならぬ諸刃の頭突きである。
も自由になった手でデコを押さえてなみだ目になる。

『何しやがる!』
ちゃんでしょ!やったの!』
『ハッ!そうだったかもな。だが、ここはひとまず逃げさせてもらおう!』

武田、逃走。普段は冴えないくせに、こういうときだけは早い。
佐助はガラッと開いて、ピシャッとしまった襖を見て、面白そうに笑った。

『全く、かーわいいなぁ。』

でも、惜しかったなぁ。今度は痺れ薬でも盛ろうかな。なんて考えながら、
枕に顔を埋めた。

ちゃんの香りだ…』

やけに変態臭い佐助だった。







『はぁ、ひぃ、ふぅ、へぇ、ほぉ…疲れた…。』

佐助から逃げて、あっという間に城外へきていた。しかも、見たことない土地だ。
だが、不思議と焦りは感じなかった。だって、佐助から逃れたんだから。

『勝った…勝ったぜ!ひゃはは!』

ガッツポーズをとり、は元きたみち…だと思う方向に足を進めた。
だが、いつまでたっても城は見えてこない。

そして、文頭に戻ったわけだ。

「だー!佐助の馬鹿野郎めが!」

このまま餓死したらどうするんだっつの。かの武田信玄の息子が迷子になり死亡。
なんてことになったら、武田の面汚しだ。うぐぐ、佐助のせいだぞ。
そのとき時だった、ガサガサと前方で何ものかの気配がした。とっさに身構える。

「…Ah-?お前…信玄公の息子の、鬼神じゃねえか。」
「ふげ!お前はもしや、独眼龍じゃねえか!」

伊達政宗が、とバッタリ会った。
は俯き、黙り込んだ。政宗は何かあったときのために愛刀に手をかける。
だが、政宗の予想に反した出来事が起こった。

「助かったー!」

は政宗に飛びついた。抱きとめ、状況を理解できてない政宗がは?と言った。
胸中には自分より幾分小さい”鬼神”がいて、正直自分はどうすればいいのかわからなかった。
相手はあの”鬼神”。めっぽう恐ろしいあの”鬼神”だ。

「いやー俺さ、迷子って奴でさ、このまま死んだらどうしようとか考えてたんだよ。」
「…お前、本当に鬼神か?もっとCrazyじゃねぇかよ。」
「ああ?何言ってんだか、俺はいつでもこんな感じだけど?」

政宗の胸の中で、が不思議そうに首をかしげる。
だが政宗の知っているは、こんな感じだった。

『くはははは!俺に殺されてぇのか!?くはは!おもしれー!こいこい!』
『歯ごたえねぇなぁ!くははっ!そんなんじゃ生き残れねぇぜ!』

狂ったようにザックザク人を斬っていく、奴だったはずだ。まさに狂人。
だが、目の前の奴はそんな奴には見えない。

「…本当に鬼神なら、なんでこんなとこ彷徨ってんだよ。」
「ああ、今朝方襲われそうになって逃げてたらいつの間にかここにいた。」
「ここは俺の領だぜ?」
「へぇー…ってええ!?俺何処まできてんだ!?」
「そりゃ俺が知りてえよ!」

やっべぇ、伊達領にきて、しかも長である独眼龍に会ってしまった。
ひょえ〜。こりゃやっばいぜ。

「…俺をどうかする気?」
「いんや、俺が保護してやるぜ。それが男ってモンだろ。」
「流石だな独眼龍。見直したぜ。それより、離れろよ。お前、そういう趣味あるんか?」
「Ah!?お前から引っ付いてきたんだろーが」
「ハッ、そうでした。」

本日二度目の勘違い。
そんなわけで、伊達政宗に世話になることになった。