びしょびしょになったは、当然着替えなんてなくて、しょうがなくパジャマを脱いで
乾かすことにした。今は下着を着けているだけの格好。
羞恥心が心を占めるなか、悟空が「はおっぱいがでけぇなぁ。」と笑った。
何処見てんの!なんて言えるわけもなく、「ありがと。」と苦笑いを浮かべた。




新生活の始まり




「ただいまじっちゃん!」

悟空がじっちゃん、と呼びかけた先にあるのは、オレンジ色に、星が四つ付いたボールだった。
それは、ドラゴンボールと呼ばれるもので、7つ全部集めると願い事を何でも一つ叶えてくれると言う
代物。そこまで思い出して、少々遅れても「またまたお邪魔します。」と四星球に呟いた。

「オラ、に夢中で飯とるの忘れてた。」
「ほえ!?む、夢中で!?」
「うん。見かけたから、んとこいっちゃって、すっかり忘れてた。」

たはは、と笑い頭をかく悟空。
夢中でって…!は夢中と言う単語に胸がドキリとしたが、何せ素直なこの少年
そういう言葉が自然と出てきてもおかしくないだろう。

「悟空は可愛いね。」

と、頭を撫でた。
男の子なら嫌がる台詞だけど、悟空は特別で「サンキューな。」とニカッ、と笑う。
まだパオズ山にきて数時間だが、は悟空のこの笑顔が好きになっていた。
何の悪意もないその笑顔は、見ていると優しい気持ちになれる気がする。

「でも、もうすぐ日が落ちるね。」

外を眺めて呟く。すると、悟空から「そうだな。」と言う返事が返ってきた。
何気ない言葉に、何気ない返事を返されるのは当たり前なのだが、とても嬉しかった。

「一人じゃ危ないよ?」
「へーきだって!今までじっちゃん死んでからオラずっと一人だったし。」
「そっか…じゃあ気をつけて。」

ところで、飯とってくるって、山菜か何かかしら?
は素朴な疑問を抱きつつ、家を飛び出した悟空に大声で「いってらっしゃーい!」と叫ぶ。
ちらと振り返った悟空が「いってくるー!」と元気よく手を振り、森の中へ消えていった。


「さて、冷蔵庫は何処かな?」

残されたは、悟空が山菜(仮)を探している間に何か作っていようと冷蔵庫を探すが
何処にも見当たらない。――私の観察力が鈍いの?それとも、冷蔵庫がないとか・・・。
嫌な予感がよぎる。だが、それを過信する物を見てしまった。

「電球がない!?」

何処にも、電球が見当たらない。そういえば、電線も見ない…。
まさか・・・。と、乾いた笑いを浮かべる。
でも、ありえなくもない。だって、DBの世界。確か、色々と常識はずれなことがあったはずだ。

じゃあ、じゃあつまり…悟空が捕りにいったものは…?

山菜なんてベジタブルなものではないと思う。肉類、であるだろう。
やばいぞ、眩暈がしてきた…。これから悟空が持って帰ってくるものは、想像以上のもの
であることは確かだ。どんなものがでてきてもカルチャーショックを悟空に悟られないように、笑顔を
絶やさないようにしよう。悟空の曇った顔なんて見たくない。(多分、ないと思うが。)

「ただいまー!」

ハッと、声のするほうを見れば、ガサゴソと物音が聞こえてくる。
迎えに行くのを躊躇っていると、ー?と呼ぶ声が聞こえる。
これは、行かなくてはいけない。はーい!と返事をして慌てて悟空の許へ駆けていった。

「うっ…ぐ…おかえり悟空。」

引きつる笑顔。

「今日は虎にしたぞ!、虎好きか?」
「―――す…好きよ。」

悟空の後ろには、大きな虎が横たわっていた。
こんな間近で虎を見たことはないは、あまりの怖さに言葉を失っていた。
だが、依然として悟空はにこにこだ。ここはなんとかして、労いの言葉をかけねば。

「お疲れ様悟空、流石悟空だね…。」
「お礼なんていいって、照れちまう。」

そういって頬をかく悟空はとても愛らしくて、愛らしくて、愛らしくて、とても同い年には思えなかった。
後ろの虎さえ居なければ、だが。

「じゃあオラは今から焼くから、はそこで待ってろ。」
「う、うん!あ、あの私!悟空が解体ショーしてる間に滝から水くんでくるから!」
「おお、サンキューな!」

手近にあった桶を手に取りそそくさ逃げるようにしては滝へ向かって走り出した。



「凄い…まさか虎を食す日が来るとは…。」

水を汲みつつ、ひっそりと呟く。あんなにでかい虎、二人で食べ切れるのか。
見たところ冷蔵庫がないから、保存は出来ないだろうし…。
帰ったら悟空に冷蔵庫があるか聞いてみることにしよう。


水を汲んで戻ったら、虎の肉らしきものがいくつかに切り分けられて火炙りにしてあった。
涎をたらして肉を見つめていた悟空が、に気づくと「!」と手を振ってきた。

「ほい、これのぶんな。たんなかったら言ってくれ!」

そういって渡された虎の肉は、寧ろこんなに食べれません!と叫びたくなるくらい多くて
は目を真ん丸くした。悟空はいつもこんなに食べているのか…。と思うと、驚く。
一体そんな小さな身体の何処に入っていくのか、不思議である。

「「いただきます」」

二人同時に挨拶をして、虎の肉を食べ始めた。
一口噛り付いて、もぐもぐと虎の肉の味を確かめる。悪くはない…かな?
チラリ悟空のほうを見る。

「はやっ!」
「おめぇおへーなぁ。」

と同じぶんだけの虎の肉が悟空の手にはあったはずなのに、いつの間にかなくなっていて、
次の虎の肉にてをかけている。だが、まだ口はもぐもぐしている。
悟空の驚異的な食欲に唖然としながらも、なんとなくちらとあたりを見渡す。

「…。」

見てはいけないものを見たような気がした。
剥がされた虎の毛皮が血みどろになってあった。
途端無くなる食欲。

「ごちそうさま…。」
「もふいらねぇのふぁ?おらがもふぁうふぉ。」

多分、”もういらねぇのか?オラがもらうぞ。”と言ってるんだろう。
はコクリと頷いて虎の肉を差し出すと、悟空が嬉しそうに笑った。

それからずっと悟空が食べる様子を眺めていたが、本当に悟空が食べたものは
何処へ行ったのか、謎であった。















アトガキ
夕飯何を食べようかと思いましたが…。全く思いつかずに、虎にしました。
ヒロインはどんなに摩訶不思議なことがおこっても、”DBの世界だから…。”と
しらぬまに妥協できるようになりましたとさ。