「きっとこの子は何か力を持ってるわ…。この紅い目、っていうのはどうかしら?」
?お前がそういうならそれでいい。今日からお前はだ。」

父さんと、見知らぬ女性があたしの顔を嬉しそうに覗き込む。
あたしは、そう。よ。でもあなたたちは?あたしの知っている父さんはもっと野性的な格好をしてるわ。
もしかして、その女の人はお母さん?ねえ、ここはどこ?そして、あたしは…。




始まりの唄




ハッと目が開いた。
今までのは…夢。はきょろきょろと父の姿を探す。パパスはすぐ近くで本を読んでいた。

「父さん…変な夢見た。赤ちゃんのときで、お城にいた。しかも父さんが王様みたいな格好してた。」
「起きたのか。はっはっは、寝ぼけてるな?どれ、外にでも行って風に当たってきたらどうだ?」
「……僕も見た。」
もか。ほら、二人で風に当たって来い。」
「いくわよ、。」

寝ぼけ眼を擦るの手を引いて、は外へと出た。生暖かい潮風が頬を撫でる。
眩しいくらいの太陽の光がさんさんと降っていて、思わず手で目に影を作ってしまう。

「ねえねえ、はどんな夢見たの?」
「赤ん坊のときの夢で、お城にいたんだ。多分、と一緒だと思う。」
「へえ…奇遇ね。まあ、双子だもんね。こんなこともあるわよね。」

にへら、と笑っての手を離した。は双子だった。
だが、性格は全然違う。は明るすぎるが、はそうでもない。いつだってテンションは安定値だ。
似ていると言えば黒い髪。

、海が見えるところいこ!」
「うん。」

を陰で支えるのが、といったところだ。

「やっぱり海は広いわね。…あっ!なんか小屋が見えるわ!」
「ホントだ。とうとう船旅もおしまいだね。」

目を細めて小屋を見つめたが、少し惜しそうに呟いた。
そうか、もう船旅もおしまい。最初はゆらゆらとした不思議な感覚を嫌っていただが、
最近ではそれも慣れ、船旅も悪くないと思い始めていたところだった。

「なんか残念ね」
「でも、まだ見たことのない所に行くのって、ちょっとわくわくだよね。」

目を瞑り、まだ見ぬ大地に思いを馳せる。
どんなところで、どんな人がいるのか。想像すれば不安や期待が押し寄せる。
父の後ろをついてきた二人は、幼いながらもたくさんの人をみてきた。
どの人もいい人とは限らなかった。だが、そう言う人は極僅かで、いい人は沢山いた。
いい人に会うたびに、父は、ああいう人になりなさい。と彼らの頭を撫でたのだった。


船は着実にビスタの港へ向かっていく。

、サンタローズってどんなところだと思う?あたし全然覚えてないんだよね…。」
「僕も。でも、きっといいところだと思うよ?」
「そうよね。早くつかないかしら…。あっ、ついたみたい!」

いつの間にか船は、ビスタの港についていた。船員が着々と上陸のための準備をする。
二人はパパスを呼びに行くために、船室へ駆けて行った。

「父さん!船、ついたわ。」
「おお、そうか。お前たち、忘れ物はないか?」
「ないない。さあ、早く行こうよ!」
「はっはっは。元気が良いなあ。」

マイペースなパパスをが急かし、三人は船室を後にした。
出口へ行くと、やけに太った男が居た。男の傍らには小さな、空色の髪の毛の女の子が居た。
はパパスのあとについていきながらも、その女の子に目が釘付けだった。
何せ久々に見る同年代の女の子。二人は少女と喋りたかった。

いろいろな所を転々としているために、二人には友達と呼べるものがいなかった。
そんな二人の唯一の救いは、双子であったこと。双子だから互いを話し相手にできるのだ。

「ねえ、。あたしあの子と話がしたいわ…。」
「思うことは一緒だね。僕もだよ。」

パパスは今、太った男と話をしている。今なら話しかけられる。
の服の裾をぎゅっと握り、思い切って空色の少女のところへ向かった。

「こんにちは!」

が笑顔を浮かべて挨拶をした。に倣って笑みを浮かべた。
空色少女は顔を伏せ、もじもじとしている。

「こっ、こんにちは…」
「名前はなんていうの?あたしは!こっちは!あたしたち双子なんだ。」
「わたくしは、フローラと申します。双子なんですか…わたくしは一人っ子なんで、羨ましいです。」

顔を上げたフローラの顔は、とても可愛い顔だった。
頬を赤く染めていて、子供ながらが最初に持ったフローラへの印象は、「護ってあげたい子」だった。

「でも、喧嘩はしょっちゅうだし、比べられるし、嫌なこともあるのよ?」
「喧嘩…ですか。でもわたくし、喧嘩をする相手もいませんわ…。おともだちもいませんの。」
「ねえ、あたしたち友達になろうよ?あたしたちもね、旅続きで友達いないのよ。」

が首をかしげると、フローラが驚いたように目をパチパチさせた。
そして、大きく頷いた。そのとき初めて、フローラが二人に笑顔を見せた。
その笑顔に、だけでなくなぜかの顔が赤くなった。それぐらい、フローラの笑顔は可愛かった。

、いくぞ。」

パパスに声をかけられ、ハッと我に返った二人が、名残惜しそうな顔をしてフローラを見た。
あっという間に別れのとき。初めてできた友達との別れは、とても辛かった。
たとえそれがほんの少しの馴れ合いだったとしても。
パパスは察したのか、オホン。と咳払いをし、「また会えるさ」と二人の頭を撫でた。
二人は頷き、フローラに小さく手を振った。フローラも悲しそうな顔をして手を振る。

初めて出来た友達との別れを経験し、三人は船を下りた。