目覚めた力




いくら二人が落ち込んでいても、旅はまだまだ続く。
パパスは船着場の主人となにやら会話をしている。は落ち込んだ気分を取り払おうと、
少し外に出てみよう。と提案した。は小さく頷き、二人は船着場から一足先に出た。


外はとても広かった。一面に広がる緑。山だって見える。
春風が緑のにおいを運び、太陽がこの地を見守るように照っている。

「広いねえ…」

がぽつりと呟いた。もまた、同じ事を思っていた。
ふと、目の前の草が不自然に揺れていることに気づいた。風に揺らされているのとも違う、まるで
何かがそこで動いているようだった。

!なんかいる!」

の切羽詰った声に、が急いで駆けつけて、何!?ときょろきょろと探し始めた。
刹那、ぴょん!と出てきたのは、スライムだった。だが、一匹だけではなかった。二匹…三匹と出てきた。
が拳を構え始めた。も武器であるひのきぼうをぎゅっと握り締める。
いつもはパパスがいて、モンスターを退治してくれるのだが、そのパパスは今いない。
二人でこの危機を乗り越えるしかなかった。

「いくわよ!!」

がスライムに拳を打ち込む。そこにすかさずがひのきぼうで殴りにかかる。
そうして三匹のうち一匹を倒すことが出来た。だが、安心は出来ない。まだ二匹いるのだから。

「きゃっ!」

一匹がに背後からぶつかってきた。
はそのまま前に倒れこんだ。が慌てて駆け寄ると、「い…痛い…。」と唸り声にも似た声を出しながら
立ち上がった。そこへ、もう一匹が突進してきた。の前に躍り出て、―――僕がやらなきゃ!
と、逃げたがる心を必死に押さえつけ、ひのきぼうをきつく握る。

「ホイミ!!」

背後からの声が聞こえてきた。反射的に振り返ると、が淡い光に包まれている。
「え…?」困惑の声が漏れる。は魔法なんて覚えていなかったはずだ。

次の瞬間、何かが物凄い勢いで動いた音がした。音のほうを向けば、我らが父、パパスがスライムを
斬ったところだった。はほっと息をついた。―――助かった。
は立ち上がり、砂をパンパンと払って、「父さん…。」と気のない声で言う。

「あたし、魔法使えた。」
「……。そうか。には武道の才もあるが、魔法の才もあるようだな。頼もしい!はっはっは!」

少し黙り込んだパパスだったが、そのあとはの頭を撫で、大きく笑った。
はパパスの大きな手が好きだった。この手で頭を撫でられると、とても安心する。

「さあ、行こう。」

パパスの大きな背中を追いかけるようにして、は歩き出した。

道中、モンスターが度々襲い掛かってきたが、パパスの前では赤子同然。
次々とモンスターがなぎ倒されていった。も進んでモンスターを倒していった。
毎度の事ながら、倒せば倒すほど強くなる、と言うのは向上心を高ぶらせる。
日が暮れる頃には、も擦り傷だらけになったが、変わりに心身ともに強くなっていた。
互いの傷を見せ合い、自分たちの活躍を言い合っていた。

次の日の午後、三人はサンタローズへついた。
門番はパパスの姿を見るなり「パパスさんが帰ってきた!」と叫び、喜びも醒めぬまま、村の人へパパスの帰還を
知らせに行った。村ではパパスは英雄のようだった。
村人たちはパパスを見るなり喜びを露わに歓喜の声を上げ、パパスの帰省を喜んだ。


「パパス様!お帰りなさいませ!!このサンチョ、どれほど旦那様のお戻りをお待ちしたか…!」

小さいくせに丸々と太っているおじさんが、パパスを見るなり感涙を流しながら駆けてきた。
が不思議そうに見ていると、視線に気づいたサンチョが、「こ、これは!」とオーバーなほどの
驚愕の表情を浮かべた。

お嬢様に坊ちゃま!!二年前に見たときはあんなに小さかったのに…!今ではこんなに
 逞しくなられまして!サンチョ感激でございます!!」
「ど、どうもサンチョさん…。」

が引き気味に答えると、サンチョはブンブンと千切れんばかり頭を振って

「サンチョさんなどではなく!サンチョと呼んでください!!」
「え…でも」
「いいのです!坊ちゃまも!!」
「は…はあ。」

は、サンチョの従者ぶりに少々苦笑いしながらも、いい人なんだな。と感じた。