仲良し




目が覚めたら朝だった。どうやら、随分と寝たようだった。
口の端には涎のあとがあり、は朝から何ともいえない不快感を覚えた。
そこでふと違和感を覚えた。確かスープを飲みながら眠ったはず。それなのには目覚めたらベッドだった。
誰かが運んでくれたのだろうか…?スープの器がテーブルから消えている辺りから、サンチョだろうと思った。

「ん…」
「あ、。おはよう。」

隣のベッドでがのっそり起き上がった。寝癖だらけの頭をかき、二度寝しようと再びベッドに身を沈めるが、
がそれを許さなかった。の上体を起こし、いつまで寝るつもりよ、と苦笑いした。

「もう朝なのよ?ほら、ご飯食べに行こうよ!」
「ん〜…。」

起きてるんだか起きてないんだか判らないの手をしっかりと握り締め、無理矢理下へと連れて行く。
階段を下りていく間に、香ってきたのは朝食の香り。のお腹が素直に悲鳴を上げた。
慰めるように摩ると、のお腹からも悲鳴が上がった。ちらりとを見やると、寝ぼけた顔をしながらも
ちゃっかりと顔が赤かった。

「ああ、おはようございます!朝食はできてますよ!」
「わあ〜美味しそう!」

サンチョの作った朝食はとても美味しそうに見えた。と言うか実際に美味しいのだろう。
は繋いでいた手をパッと離し、席に着いた。が席に着く頃には、既には朝食を口にしていた。

二人が朝食をほおばる様子を、サンチョが微笑ましく見守る。

「美味しいですか?」
「むん!ほっれもー!」
「うん、とっても。って言ってる。」

口に沢山詰め込んでるくせに行儀悪くも喋ったの口からポロポロと零れている。
あわててサンチョがそれを拾い、ゴミ箱に捨てる。

お嬢様、口に何か含んでいるときに喋っては駄目ですよ??」
「…ん…む…はーい!」

詰め込んだものを全部飲み込んでから、いい返事をする。
「返事だけはいいんだから。」とが苦笑いすると、がじろっと睨む。

「返事だけじゃないわ。ちゃんと次から気をつけるもん。」
「約束だからね?」
「うん!」

は一応お兄ちゃんだ。隣に座っているの小指に自分の小指を絡め、”指きりげんまん”をする。
その様子を見て、サンチョが涙を流す。

坊ちゃま…!とっても成長してるんですね!サンチョは嬉しいです!!」
「妹がこんなんだから、お兄ちゃんがしっかりしないといけないもんね」
「こんなんってなによ!お兄ちゃんって言っても、双子なんだからそんな変わんないんだからねー!」
「ほらほら二人とも、喧嘩はいけませんよ…」

喧嘩が始まりそうな二人をサンチョが宥め、大きくなりかけた火は消火された。


朝ご飯を食べ終えた二人は、パパスの不在に気づいた。
サンチョに尋ねた所、どうやら出かけたらしい。
パパスが二人を置いてどこかへ行くなんて、珍しい。とは思った。

、サンタローズを探検してみようよ!」

の提案に、はそうだね、と勢いよく頷いた。
小さい頃にいたとはいえ、ここでの記憶は残っていない。となると、探検してみたくなるのは当然だ。
の手をしっかりと握り締め、家を出た。

「シスターさん、おはようございます。」

が挨拶をすると、シスターは微笑みを浮かべ、おはようございます。とお辞儀した。
シスターはが手を繋いでいるのを見て、「仲が良いのですね。」と言った。
するとは顔を赤くして手をパッと離し、「そんなことありません!」と弁解する。
だが、シスターはくすくすと笑うだけ。二人は逃げるように川へと向かった。

「もう…のせいよ」
「なんで?仲が良いって、いいことじゃないか。」

靴を脱ぎ、川に足をつけながら二人は並んでいた。
はきょとんと首をかしげると、は顔を赤くして、「そうだけど〜…」と口ごもる。
その様子を見たが悪戯っぽく笑い、わざと萎れたように「そっか…。」と呟く。

は僕のこと嫌いなんだ?」
「ちっ、違うわよ!なんでそうなるのよ!」
「だってそうじゃないか、僕のことが嫌いだから仲良く思われるのが嫌なんだろ?」
「そんなわけないじゃない!好きよ!」

から好き、と聞いて嬉しそうには顔を綻ばせた。
言ってからは激しく後悔した。 ―――は、はめられた…。

「馬鹿…もう知らない!」
、拗ねないでよ。」

ぷい、とそっぽを向いたに、は苦笑いすると、ごめんね。と素直に謝った。
するとに向き直った。の顔はぶすっとしていて、は困ったように再び謝った。

「本当なら許さない所だけど、今回だけは許してあげる。感謝してよね。」
「よかった。ありがとね。」

なんだかんだで仲の良い双子だった。