ふたりきりの冒険




「そういえば父さんはどこにいったのかしら?」
「さあ…。ちょっと聞いてみようか。」

きょろきょろと辺りを見回すと、洞窟の近くにおじいさんがいた。たちは川から足を抜き出し、靴を履き、
おじいさんのところへと向かった。

「あの〜」

近くで見ると厳つい顔をしているおじいさんに、はびくびくしながらも勇気を振り絞って話しかける。

「なんじゃ?おお、これはパパス殿の子供…。」
「父さんを知りませんか?」
「パパス殿ならわしから船を借りてあの洞窟へ行ったぞ?…ああ、追いかけちゃいかんぞ?
 父さんの邪魔をしちゃいかんからな。」
「はーい!」

やはり返事はいいが、威勢の良い返事をした。その返事に気を良くしたおじいさんが、うんうん。
と微笑を浮かべて頷いた。

は一旦先ほど喋っていた場所へと戻った。

「ねえ、。どうする?」
「あたしは追いかける気満々よ?」
「やっぱりね、決まりだ。行こう。」

どちらも好奇心旺盛。
パパスが向かったと言う洞窟へ、向かうことに決めた。
橋を渡り、先ほどのおじいさんに気づかれないようにこっそりこっそり洞窟の入り口へ向かった。
入り口から眺める洞窟は真っ暗で、進めば進むほど闇へと溶け込んでしまいそうだった。
暗い所は得意でないは、少し怖気付いたようにの顔を覗きこむが、は行く気満々だった。

「行こうか?」
「うん…」
「何、怖いの?」
「怖くなんて!!」
「大丈夫、僕が護るからね。」

にこりと微笑んだに、は不覚にもドキンとしてしまった。
普段は頼りないくせに、こういうときはとても頼りがいがあるように見えてしまう。
の服の裾をしっかりと掴み、「いこう。」とを促した。

を先頭に暗い暗い道を進んでく。
闇が深くなるごとにの服の裾を掴む手の強さも強くなっていった。

、怖くない?」
「ぜんぜんっ!怖いわけないよ。」

自分に言い聞かせるように言うがおかしくて、思わずは噴出した。
は「なによ。」と不機嫌そうに呟き。あいている手での脇腹をつねった。

「いて!」
「どうかしたの?」
「……なんでもない。」
「うふふ。…それより、ここ、じとじとしてるわ。、滑らないように気を付けなさきゃああ!!」
「うわああ!!」

気をつけろ、と注意している最中に言っている本人が思いっきり足を滑らせた。
に服の裾をつかまれていたも必然と、巻き添えを喰らった。
二人は思い切り尻餅をつき、尻をジンジンと痛みが襲った。

「うう…ごめんごめん。」

立ち上がり、パンパンと尻についた泥や砂を払う。も立ち上がり、恨めしそうに
を睨んだ。は気まずそうに視線を逸らし、「こんなこともあるわよね。」と乾いた笑い声をあげた。

「全く…って、うわ!いて!!」
「あ!ドラキーだわ!!!!」

コウモリのようなモンスター…ドラキーがに噛み付いてきた。
鋭い痛みが肩を襲った。ぶんぶんと肩を振るが、ドラキーは離れない。それどころか、痛みが激しくなった。
はどうしていいかわからずうろたえるが、ふと頭に呪文が浮かんできた。だがその呪文は習得していない
呪文。と言うより呪文はホイミぐらいしか出来ないのだが。

―――あたしならできるわ!
確証のない自信が身体中に漲った。は一か八か、その呪文を唱えてみることにした。

「メラ!」

呪文共に、のてのひらから炎が出てきて、その炎は真っ直ぐにドラキーに直撃した。
大ダメージを喰らったドラキーはの肩から離れ、暗闇へ逃げていった。

、大丈夫!?」
「うん…。でも、ちょっと痛いかな。」

苦笑いを浮かべるに、ホイミをかける。血が流れていた傷口は見る見るうちに塞がり、
元通りになった。

「ありがとう。、メラも習得してたんだね。」
「う〜ん。習得してたわけじゃないけど、なんか頭に浮かんできて。」

の傷口が完全に塞がったことを確認して、は「さ、父さんを追いかけよう?」と歩き出した。
本人はあまり気にしていないようだが、はまだ釈然としない気持ちがあった。

―――魔法の習得ってそんなに簡単じゃないはず?は、何者なんだろう…。

双子の妹でありながら、無限の可能性を秘めているであろうを、は少しだけ怖くなった。
だが、「むぎゃ!」と悲鳴を上げてまた転んでいるを見て、だな。と苦笑いをした。