甘いトゲを刺すみたいな




「ねえ様?」
「はい。」
「僕の事、蘭丸って呼んでよ。」
「え…恥かしいです。」

縁側でのんびりしていたときの、突然の申し出に、は困惑しながらも断った。
だが、それで引き差がる蘭丸でもない。

「ヤダ。僕、蘭丸って呼んでくれなきゃここから動かない!」

子供のような駄々コネに、思わずは苦笑いした。
こうなると、言うことを聞くまでテコでも動かないだろう。

「本当に、困った旦那様ですね…。でも、そんなところも好きですよ。」
「僕の方が好きだよ。様、好き。好きだよ?」
「ありがとうございます。蘭丸…。」
「…っ、も、様、不意打ちだって…っ!」

完全に流されたと思い込んでいた蘭丸は、きちんと自分の言った事を実行した
に、まさにノックアウト寸前だった。顔を赤くして、じたばたと悶える。
そんなに嬉しかったのかな?と、は不思議に思いながらも嬉しく思った。
自分の言葉でここまで嬉しがってくれるとは。

「なんかありがとうございます。」
「へ…?うーんと、どういたしまして?」
「えへへ」
「…なんかこう、様の言葉は甘いトゲを刺すみたいな。そんな感じ。心地良い。」
「ふふっ、そうですか?」
「耳かして?」
「はい、ご自由に。」

の耳元に顔を持っていき、こしょこしょと告げる。
みるみるうちにの顔が赤くなっていき、蘭丸が顔を離すと、蘭丸の肩にもたれかかってきた。

「蘭丸君の言葉も、甘いトゲを刺すみたいな感じです。」

先ほど告げられた言葉は―――
のこと、誰よりも大切に思ってる。愛してるよ?』

甘いトゲはの心臓へゆっくりと向かい、そしてぷつりと刺さった。
心地よい刺激に、はいつまでも蘭丸から離れなかった。