晴れの日の屋上





長かった授業が終わり、昼休みに入った。今日は一週間に一度、恋人である政宗と昼食を摂る日だった。
チャイムが鳴り終わると、は机にかけていた小さなカバンを持って、隣のクラスへ走っていった。
クラスに入ろうとしたときに、入り口で誰かとぶつかった。小さく悲鳴を上げ、顔をあげて謝ろうとすると
ぶつかった人はに片手を回し抱きしめた。突然のことに頭が真っ白になったが、そのときふわっと
鼻腔をくすぐる匂い。この匂いは、愛する彼氏伊達政宗の香りだった。

「まさ…むね?」
「BINGO!これが俺だったからいーものの、他の男だったら、そいつは今頃deathだったぜ?」
「ごめん…それより!ご飯食べよ?」
「おー。よし、じゃあいつもの場所いくか。」

身体を離されると、メガネをかけてちょっぴりインテリっぽい政宗が見えた。微妙な変化にも、の胸が
きゅんとなる。歩き出した政宗が、手を差し出し「Let's go!」と眩しい笑顔を浮かべた。
も自然と微笑み、頷いて手をとった。おっきくて、あったかい、でも少し骨ばった政宗の手。

「おい、スカート短くね?」
「そおかな?みんなこんなもんじゃない?」
「わかってねーなあ…。狼はそこらじゅうにいるんだぜ?そんな出してたら、”みんな”よりも可愛い
 は真っ先に狙われちまうぞ。それは、俺が嫌だ。OK?」
「むうう…わかるようなわかんないような。」
「やっぱ馬鹿だなあ」
「むう!政宗ひどい!」

周りから羨望、妬みの視線を受けながら、階段を一歩一歩のぼる。
のぼりきり、目の前にそびえる扉を開けると、突き抜けるような青空。ここは屋上。頬を撫でる風が気持ちいい。
端っこのほうにお弁当が二個入ったカバンを置くと、政宗が大きく伸びをした。

「気持ちいいねえー。」

気持ちよさそうな政宗の横っ腹をつん、とつつくと、「うひゃ!」と情けない声を上げて反った。
その様子を見て笑うと、政宗が反撃を仕掛けてくる。

「こんにゃろー、よくやったな?」

にやっと不敵に笑った政宗が、の肩をがっしり掴むと、いきなり顔を近づけてきて、口付けをした。
強引に口をこじ開けられ、舌が侵入したきた。の舌を見つけると絡み付いてくる。

「んっ…」

激しい絡み合いの中、の口の端から雫が零れ落ちる頃、政宗が漸く顔を離した。
の口と政宗の口を銀の糸が繋いで、途切れた。

「な、にするのおっ!びっくりするじゃない。」

顔を真っ赤にして涎を手で無造作にふき取ると、政宗が嬉しそうに微笑んだ。

「その仕草エロい。」
「もお…、ふざけないで?」
「ふざけてないぜ?それに、最初に仕掛けたのはだ。なあ、そういう気分になった?」
「そっ、そんなこと、普通聞く?」
「その反応は、なったな?Verycute!」

笑顔のまま、政宗はを押し倒す。その弾みでスカートが捲れ、下着が丸見えになる。
目の前には、憎いくらいの笑顔の政宗と、憎いくらいの青空と、憎いくらいの白い雲。

「いただきまーす」
「ぶひゃわほへえ!!!ましゃむにぇどのをぉお!」

政宗の手が制服越しにの胸に触れるか触れないかぐらいの時、遠くから尋常じゃない声が
聞こえてきた。二人が一斉に声のするほうを見ると、昼時とは思えないグロテスクな映像が
広がっていた。一面血の海…。ぎょっと目を見開く。よく見ると、その血溜りの中心は、政宗と同じクラスの
真田幸村だった。大体想像がつく。彼は、二人の様子をみてしまったのだ。

「幸村…Bad timing」
「は、はくちゅうどうどうおくじょうにて、さんさんとたいようこうがふりそそぐなか、そらもあおいのに
 まさむねどのはじょせいをおそおうというのか!い、いや!おかそうとしているのか!?」
「わかりやすく喋れや。」
「ゆっ、幸村くん!助けてえー!」
「お、え、ええ?」

の裏切り。うろたえる政宗。

「や、やはり!殿、お助けする!」
「ちょ、まて、俺はの彼氏で、だから別にこういうことするのは自然の流れで、滝が上から下に落ちるのと同じで…」
「問答無用!どけえ!」

の上に覆いかぶさっている政宗はどん!と押して退かし、を救出する。
政宗はをなんで?と言う目で見るが、は悪戯っぽくべえ、と舌を出した。
そんな姿も可愛い、なんて思ってる政宗の脳はもはや重症。末期である。

「大丈夫でござるか?」
「うん。もう…昼間からなんなんだろうね?サカリかしら…いこいこ。」

幸村と二人で去っていった。勿論、片手にはお弁当が入ったカバンを持って。
残された政宗は、心の中に虚しさを取り払えぬまま、その日の授業が終わるまで屋上でぼーっとしていた。
晴れの日の屋上の話。

(別名:政宗虚しい話)