光浴びているはずのあなたは冷たい海の底で一人泣いていたんだね




我が軍の軍主、。常に皆から期待を寄せられている、優しさ溢れる王子様。
私の恋人であり、主君である。女王騎士は、女王に仕える騎士であるが、状況が故に
いまや殆どの女王騎士は王子に従っている。

そして今、私はの部屋にお邪魔している。少ないが言葉を交わすために。
ベッドに二人で並んで座る。

様。」
「二人のときぐらい、様付けやめてよ。」
「それもそうだね、それで。最近忙しいね。平気?」
「…うん。まあね、がいるから平気だよ。」

はにかみながら言うなんて卑怯だと思う。サラリと嬉しい言葉を吐いて、私は風船のように
ふわふわと浮かんだ気分になる。言葉とは凄い。特に、からの言葉は凄い。

「そういえば今日ね、ロイ君にデートのお誘いされたの。」
「え、ロイから?まさか、行かないよね?」
「…行くって言っちゃった。」
「え!?」
「嘘、嘘。そんなわけないじゃん。」
「…よかった。もう、心配させないでよ。」

そういってがふわっと抱きしめてきた。横をチラと見ればの綺麗な銀髪。
風呂上りだから、シャンプーの香りが漂ってくる。私との香りは一緒だけど、好きな人の
髪の匂いって言うのは自分の髪の匂いなんかとは全然違うように思える。

「いいにおいがする。」
「僕も感じた。のにおいがする…大好きだ…。安心する。」

長い間そのままでいて、身体を離す。じっと見つめあい、口付けをする。
やがてが私の口をこじ開けて、舌が侵入してきた。くちゅ、くちゅ、と卑猥な水音が響く。
力が入らなくなって、に凭れかかる。

「可愛いなあ、。僕だけの。」
「んっ…う…、不意打ち。」

ぎゅっとに抱きつく。

「ね、ね、力になれることがあったら言ってね?」
「…うん、ありがとう。」

いつも自分ばっかり頼っているから、自分もの力になれるように、と思い口にする。
そうして、私はの部屋を立ち去った。



部屋を去ったあと、すぐに自分の部屋へ向かったが、どうにも寝付けなかった。
それなら、夜風にでも当たろうと、私はこっそりと部屋を抜け出して階段を駆け上がった。
外へ繋がる扉に手をかけようとしたとき、人の気配を感じた。一人だ。誰だ。
もしゴドウィンからの刺客だったら、命を懸けてここで食い止めなくてはいけない。

意を決して、扉を思い切り開ける。瞬時に刀を抜き、構える。
そこにいたのは―――だった。一気に拍子抜けして、「なんだ…。」と肩の力を抜いた。

「あ……。」
…てっきりゴドウィンの刺客かなんかだと…、泣いてるの?」
「な、泣いてないよ。心配性だな、は。」

逆光でよくわからないが、泣いているように思えた。声色もそうだし、目を擦る仕草をしていた。
何かあったのかな、と私は心配になった。は涙を滅多に見せない気丈な子だから。

…。」
「な、に?」
「ごめんなさい、気づけなくて」

いつだっては光を浴びてて、前に進もうと頑張ってる。
そう思ってた。けど、違った。彼はいつも泣いてた。彼だって人間。親が一夜にして死んで、
人の醜さを知って、皆を引っ張っていくしかないから、弱音なんて吐ける立場じゃなくて…。
だから一人で泣いてたんだ。暗くて冷たい、光なんて入ってこない海の底で。

…一人で背負い込まないこと。約束して?」
「背負い込んでない…。」
「天邪鬼ね。ほら、指きりげんまんしよ?」

優しすぎるが故に、自分だけで背負い込もうとする。悪い癖。
たとえ形式だけだとしても、指と指を絡めて約束を交わす。交わすことに意味があるんだと思う。

「指きりげんまん、嘘ついたら絶好ー。」
「えっ…それは困るかな…。」
「ふふ、じゃあつらいときは何も言わなくていいから、せめて甘えて。縋って。」

そうしてくれれば、判るまでは行かないけど、きっと分かち合うことできると思うから。
儚くて、脆いへ、愛を込めて。

「愛してるから。」