人の




暖かな日差しが降り注ぎ、グレッグミンスターの表通りを行きかう人々を照らす。
僕の後ろにそびえる黄金像も、その日差しを受けて更に神々と輝いている。
今日の空には、雲があまりない。青く澄んだ空を吹き抜ける風が頬を撫でる。
今、僕は人を待っている。そいつは無二の親友で、笑顔の似合うやつ。


――――まだかな
ちらり時計を見やると、既に予定時刻を過ぎていた。
彼のことだ。遅れてくるに決まっている。僕は予定時間の10分前からいるのに・・・
きっと、彼はばつの悪そうな顔をして「わりぃ。許してくれ。一生のお願いだよ!なっ!」
とかなんとかいって僕に許しを請うんだ。今日こそはちゃんとけじめをつけなきゃなっ!

――――とはいっても、暇なんで、石畳の地面を目でたどっていく。
見えるのは人々の足だけ。やっぱりつまらない・・・。僕は小さくため息をついた。
これならもうちょっと家にいればよかった。なんなら家に戻ってやろうか!

だがそんな僕の思い、視線を上げてすぐに消え失せた。

僕の一直線上を歩く一人の女性。遠くからでもわかる、整った顔。ハチミツ色した髪。
その女性は、何故か僕には輝いて見えた。僕は一瞬でその女性に囚われた。
心臓が深く脈打ったと思ったら、早鐘を打ち始める。こんなことは初めてだ。
すぐにその女性は人ごみにまぎれて見えなくなってしまったけど、僕の頭は女性を記憶していた。
白い白衣を着た、天使のような綺麗な女性。

―――――はじめてみた。あんな綺麗な人・・・
僕より年上だろうか?名前は?グレッグミンスターに住んでいるのだろうか?
数々の疑問が僕を占める。答えが出るわけもないのに。
もう見えなくなってしまったあの人を思い浮かべ、暫くボーッとしてしまった。
何も考えられなかったのだ。俗に言う、一目惚れというヤツなのかもしれない。

「・・・おい、!?」

ハッ、と我に返る。音源を見ると、不思議そうな顔をした親友―――テッドの姿があった。

「ずーっと何か見てたみたいだけど?」
「・・・なんでもないよ」

質疑を繰り返すテッドに、少し間を空けて答える。
まだ言いたいことはあるようだが、僕の声を聞いて渋々引き下がった。

「今日は何処へ行く?」
「そうだなぁ・・・ウサギの狩りでもするか?」
「わかった」

表通りを駆け出したテッドに続き、棍を握り締めて僕も走り出した。
あの人はいないか。と目で探すが、当然の如くいなかった。
テッドの遅刻について叱ることも忘れ、ただひたすら彼女を想った。



大分薄暗くなった空には、一つ、また一つと星が輝き始める。
帝都グレッグミンスターは、次々に灯りが灯り始める。黄金に輝くグレッグミンスター城。
風が冷たくなってきて、汗をかいた体が急激に冷やされる。

「あーー疲れた!」

テッドは形振り構わず草原に座り込んで大きく息をついた。
僕も岩に腰掛けて棍を傍らに置く。汗が滴り、それを無造作に拭う。

「結局一匹も狩れなかったけどな・・・」
「自信満々に駆け出したのは誰だっけ?」
だろ!」
「テッドだって!」

言い合った後に同時に笑い出し、笑いが収まるとしばし沈黙が流れた。
沈黙とともによみがえる今日見かけたあの女性。再び激しく動き出す心臓。
胸に手を当て深呼吸。

「そういえばさ、今日じーっと見つめてたのって何?」

いいタイミングでテッドが問いかけてくる。僕は言葉を濁して唸る。
これをいったら必ずテッドはからかってくるだろう。だが彼は親友だ。壁を作っているようで心無い。
しかし――――彼のニヤついた顔を見ていると言いたくなくなってくる。

「言えって、俺たち親友だろ?な?な??」
「で、でも――――」
は俺のことが嫌いなのか!?」
「は?ち、ちが―――」
「そうだったんだな・・・俺たち・・・」
「だぁー!わかった、わかったよ!!!」

僕はとうとう折れた。矢張り彼には敵わない・・・。
無邪気な笑みを浮かべて此方を見て、僕の言葉を待っている。

「実は―――」





「ほお!とうとうにも春が!」
「い、いや!別に好きなわけじゃ!」
「しかも年上か・・・うーん、一度はあこがれるもんな。年上の女性って」
「一人で暴走しないでよ!」
「俺はお前を応援してるから!テッド様になんでも言いな」

なんだかんだいってテッドは僕を応援してくれる。言ってよかった・・・。
しかし、ニヤついた顔はやめてほしい。
本格的に暗くなってきた空を見て、テッドが「そろそろ、帰ろうか」と立ち上がった。

「明日、会えるといいな」
「・・・うん」

ここからでもわかる、黄金像の輝き。
彼女は黄金像よりも輝いていた。整った顔。ハチミツ色の髪――――。
きっと今日彼女を見つけたのは奇跡。また会えることを信じて僕はグレッグミンスターへ歩き出した。
















アトガキ
特定の相手での長編をやってみたかったので第一弾は坊ちゃん(笑
ヒロインは年上です。次回ヒロインと坊ちゃん急接近!?