には




あれから心臓は早鐘を打っているし、緊張して眠れないでいる。
頭が痛くて、身体もだるくて、本当は眠りたいのに。
彼女の姿が頭にちらと浮かぶたびに頭が冴え渡り、眠りを邪魔する。

早く来ないかな・・・。
今はいないさんに思いを馳せる。
さんは今、僕のために薬を処方してくれているのだろうか?だとしたらとても嬉しい。

コンコン――――
ノック音が部屋に響き渡る。それと同時にドキリと心臓が跳ね上がった。
まさかさん?淡い期待が胸を横切った。それと同時にさんの顔が横切った。

「坊ちゃん、私です。グレミオです」

グレミオには悪いが、無意識にため息をついていた。
そう早く薬が処方できるわけないんだ・・・。少ししてからどうぞ。とグレミオを招き入れた。
控えめに開けられた扉から現れたのは長い金髪を結った優顔。それにそぐわぬ頬の十字傷。
その顔に宿るのは心配の色。

「大丈夫ですか?何かして欲しいこととか・・・ありますか?」
「大丈夫だよ。心配しないで。それより、お医者さんはいつくるの?」
「もうすぐくるとおもいますよ」
「わかった」

目をつぶり、眠りにつこうとする。寝て、目が覚めたらさんがいてくれますように・・・。
そんなことを考えていると、気づいたら意識を手放していた。



「ぐっすり寝てますね」
「はい。可愛らしい寝顔でしょう?」
「そうですね。あ、これお薬です。」
「ありがとうございます。」
「任せてください。グレッグミンスターきっての名医・・・の弟子ですから。」

意識が朦朧とするなかで、遠くからか、近くからか、男女の話し声が聞こえる。
可愛い寝顔・・・可愛いの所は聞かなかったことにして、寝顔、ということは多分僕のことを指すのだろう。
きっとグレミオと――――さん。

「テオ様はどうしたのですか?」
「今ちょっと遠くへ出向いてまして。」
「そうなんですか・・・早く戻ってきて欲しいですね。」

心地よい声。そろそろ目を開けて、さんの顔を見ようかな・・・?
少し身じろいでうっすらと目を開ける。視界に白衣の白と、ハチミツ色の髪が広がっている。

「あ、坊ちゃん!起きましたか?」
「あら、お目覚めですか?おはよう君。」

くるり、振り返る。ハチミツ色の髪が揺れる。
後ろにいるグレミオが、喜色を称えて歩み寄ってくる。
さんを見ると、さんもまた笑顔で佇んでいる。

「大丈夫?つらくない?」

顔を覗きこまれる。小首を傾げるしぐさは・・・とても可愛らしい。
長い、カールしているまつ毛。ハチミツ色の髪の何束かが白衣を滑り落ちる。

「・・・・はい」

声を絞り出す。さんはにこっと微笑み、白い紙袋をバッグから取り出した。

「これ、お薬です。食後に飲んでくださいね。カプセルですけど・・・大丈夫です?」
「あ、だ、大丈夫です!わざわざありがとうございます!」
「いえいえ」
(おいさんの目の前でかっこ悪いぞ!)

さんを目の前に、上がりまくりの自分を心の中で叱咤するが、女性とはクレオや、
ソニア・シューレン意外とはあまり交流がない僕には無理だった。
こういうとき、テッドなら陽気な笑顔を浮かべて会話を交えるのだろう。

「何か、してほしいことはない?欲しいものは?私に出来ることならなんでもいって!」
さんは信頼できますよ。私が保証します!」

グレミオがさんを絶賛する。自分の役目(役目=僕の身の回りのお世話)
を譲るくらい彼女を信頼しているということは絶大の信頼を置いているのだろう。
医者としても、もしかしたらプライベートでも・・・。
そこまで想像して身震いをした。まさか、深い関係はないだろうな・・・?
いや、そんなわけはない。二人はさん付けで呼び合っているし。

「どうしたの君?」
「え、いえ・・・うーん。」

少し考え込む。そういわれてもすぐには思いつかない。
考えるふりをして、チラとさんの顔を盗み見する。

「・・っ」

さんは僕をじっと見ていて、ばっちり目が合ってしまった。
思わず息を呑んで、目を見開いた。それをみたさんはくす、と笑みをこぼす。
羞恥心が僕の頬を更に赤くした。

目を閉じて、もう一度望みを考える。
ない、といってしまえばそこでおわり。そんなのはイヤだ。

あ―――――。
一つ、考えが浮かんだ。
だがそれを言えば、僕のことを変な男だと思われることは必至だし、グレミオに泣きつかれる。
だから、これは僕の胸の中にだけしまっておくことにする。

「・・・ない、です。」
「そっか。じゃあ、お大事にね?」

バッグを持ち、グレミオに一礼して、最後に僕に一礼をして部屋から去っていった。

「いい人だね、さん」
「ええ、人気なんですよさんは。腕もいいし、いい子ですから、テオ様も気に入ってるんですよ」

どこか嬉しそうに語るグレミオ。それにしても父さんが、とは意外だ。
きっとグレミオも気に入っているのだろう。

「それじゃあ、安静に。後でお粥を運びますから」

それだけいうと、グレミオも部屋から出た。
再び沈黙する部屋。ベッドに横たわり、目をつぶる。

―――――さん。
あなたが傍に居てくれたなら、他には何も要らない。
















アトガキ
べた惚れって言うのはこういうことのことを言うんでしょうかw
坊ちゃん視点を終わらせたら、ヒロイン視点でも話をかいていきたいとおもっています。