ラピスラズリの騎士




今日はドミナにやってきていた。理由は特にない。なんとなく、いかなければいけない。と感じて。
ドミナはいつきても思うが、とても懐かしい感じがする。街並み、色合い、人々、すべてが懐かしさを感じる。

「よっ。」

この、八百屋を思わせるこのなんともいえない容貌。懐かしい…。

「タマネギだ。」
「タマネギ剣士デュエルだ!」

小さな身体を存分に揺らして怒った。”剣士デュエル”を言い忘れたぐらいで怒りすぎ。
と言葉には出さずに、「ごめんごめん」。と心とは裏腹に素直に謝った。

「なあ…。人を探してるんだ。知らないか?」

緑の長い髪で顔半分を隠していて、砂マントを被っている少年。胸元には髪同様緑色に輝く宝石。
とデュエルは、何から言えばいいのか判らなかった。しばし固まっていると、少年は顔を顰める。

「知っているのか、知らないのか?」
「ちょっと待ってよ。名前とか、特徴とか、言ってもらえないとわからないよ。」

がにっこり教えると、少年はハッと目を見開き、恥ずかしそうに顔を赤くして頬をかいた。
これが、これから起こる珠魅ととの物語の始まりとなったのかもしれない。
いや、寧ろそれより前から物語は始まっていたのかもしれないが。

「白いドレスに、長く編んだ髪をたらしている。妹みたいなものなんだが…」

下唇をかみ、悔しそうに視線を落とす。迷子のプリンセスは、少年にとってとても大切な人なんだとわかる。
二人が何もいわずにいると、彼は少し表情を曇らせる。

「知らないならいい、すまなかったな。」

簡単な礼を述べると、少年は踵を返してさっさと行ってしまう。隣でデュエルが「なんなんだ…。」
とつぶやいたと同時に、は駆け出した。後ろでデュエルが「!?」と叫んでいるが無視だ。

「待ってよ!」

少年には直ぐ追いつき、思わず手首を握り締める。少年が目を丸くして驚き、の顔と、つかまれた
手首とを交互に何度も見やる。

「私も手伝う。君にとって大切な人なんでしょ?」
「え…?だが…。」
「何いってんのよ!困った時はお互い様。」

少年は最初困ったような顔をしていたが、直ぐに小さく微笑み「ありがとう」と言った。
は微笑み、手首から手を離す。

「私は。君、珠魅でしょ?珠魅の事は結構知ってるのよ。」
「そうだが…。変わった奴だな。俺は瑠璃だ。よろしく。」

胸元に埋め込まれている宝石は、まさに瑠璃自身の命の証。
瑠璃のラピスラズリにはきめ細やかな傷があった。磨いてあげたいな…。と思ったが珠魅の核は脆い。
アレックスが核が傷つくのは、命が傷つくのと同じだ。といっていたのを思い出して、恐ろしくてやめた。

「それじゃあ、まずは聞き込みをしよ!ドミナではぐれたの?」
「ああ。…恩に着る。」
「いえいえ。」

手首を離して、は歩き出した。
取り残された瑠璃は、暫く手首に残るの感触にぼうっとしていたが、遠くから「はやくー」と
少し間延びしたの声にはっと意識を取り戻し、急いで駆け出した。

不思議な女――
これがの第一印象だった。