プリンセスの消息について




「髪が長くて、白いドレスを着たおっとりした子知りませんか?」
「知らないなぁ〜」

随分と聞き込み調査をしているのだが、依然として確かな情報も曖昧な情報も
何一つ得られていない。いいかげんうんざりしながらも、たちは根気よく聞き込みをしている。

「なあ、髪が長くて、白いドレスを着ている少女を見なかったか?」

通りすがった少年を呼びとめ、瑠璃が尋ねると、少年は少し考え込むように
顎に手を当て唸っていると、やがて閃いたらしく、あぁ!と叫び、にこにこと答えた。

「しらない!」

瑠璃は殴りかかりたい衝動を、拳を握り締めることで必死に抑える。
少年はじゃーねー。と何のあくびれもなく去っていった。そこへがやってくる。

「こっちは情報ゼロ…。君は?」
「俺もだ。…困ったな。」
「あっそうだ。酒場に行ってみようよ。あそこなら何かわかるかも。」

いまは少しの希望にもかけてみたい。と瑠璃は休憩も兼ねて酒場へと向かうことにした。

+++

酒場に着くと、デュエルがマスターと楽しそうに会話してた。に気づいたデュエルが手を上げて手招きをする。

「よお。どうだ、迷子のプリンセスは。見つかったのか?」
「いーえ。見つからない。デュエル、一緒に探してあげよう。って言う優しい気持ちはないわけ?」
「残念ながらこの後仕事があるんでね。」

デュエルと会話を交わしていると、見慣れぬ少女が一人、どこか憂鬱そうな顔をして佇んでいるのに気づいた。
酒場には珍しくマスターとデュエル、そしてその少女しかいなかったので、非常に話しかけにくい雰囲気を
出していたが、もしかしたら何か手がかりを知っているかもしれない。は勇気を出して聞き込みをする。

「あの…白いドレスを着た女の子、見ませんでした?」
「……。」
「…知りませんよね。すみません。」
「メギブの…洞窟。」

小さく、呟くかのように言った言葉は、”メギブの洞窟”。と瑠璃が驚愕の表情を浮かべた。

「それ本当か!?」

瑠璃が声を荒げて尋ねれば、少女は怯えながらも小さく頷いた。

「いこ!」

酒場を駆け出し、メギブの洞窟へ急いだ。

+++

「煌めきを感じる…!」

メギブの洞窟に入り、瑠璃の第一声がそれだった。が煌めき?とか聞き返すが瑠璃は返さなかった。
には珠魅に深く関わって欲しくないからだ。


珠魅に関われば、不幸になる―――――

昔から言われていることだ。

「ああ、瑠璃君。」

知り合ってから、初めて彼のことを名前で呼んだ。瑠璃は一瞬きょとんとしたが、すぐに気を取り戻し
「なんだ?」と聞き返した。

「名前はなんていうの?名前!その迷子のプリンセス。」
「真珠だ。」
「それって、君のお姫様?」
「ああ。」
「珠魅って、お姫様を護るために騎士がついてるんだよね?瑠璃君がその騎士?」
「…詳しいんだな。」
「まあね。店長がよく知ってるの。他にもいっぱい知ってるよ。」

瑠璃はぐっと息を呑んだ。詳しい。瑠璃はの言う、店長さんとやらが気になっていた。
その店長に会えれば、もしかしたら仲間が見つかるかもしれない。淡い希望が胸に、痛みとともに
降り積もる。生まれたときは既に仲間がいなかった身。そして瑠璃は仲間探しのために旅をしているのだ。

「いっとくけど、店長は珠魅じゃないよ。宝石が好きな人なの。それで、珠魅のことが詳しいの」

何か言いたげだった瑠璃よりも先に、がアレックスの軽い説明をした。
それも、誇らしげに。瑠璃は複雑な顔をしてを見やるが、やがてそうか。と残念そうに呟く。

――――仲間が、欲しい…。
あてもなく彷徨う自分にとって、例え微かな可能性でも信じてみたい。
今度、もしと会う機会があったら、その店長のもとへ案内してもらおう。
――――といっても、次会う機会なんて、ないと思うが。

それに、珠魅と深く関わってはいけない。

もし、彼女が涙を流すようなことがあったら、それこそ―――――


瑠璃が無意識に顔を顰めると、それに気づいたが疑問符を不思議な顔をして、どうしたの?
と尋ねてきた。瑠璃は微笑を浮かべ、なんでもない。と返した。
それにしても、珠魅のことを知っているなら、何故進んで関わってこようとする?彼女は矢張り、不思議な奴だ。

珠魅と関われば…不幸になるんだ。

暫くどちらも何も喋らずにメギブの洞窟をひたすら歩いていくと、少し先に人影のようなものが見える。
二人は顔を見合わせて、うん。と頷くと、人影へ向かって走りだした。かすかでも、希望が目の前にある。

走っていくうちに、だんだんとぼやぼやとしていた人影が輪郭をはっきりとさせる。
女性のようだった。緑のチャイナ服に身を包み、誰かを待つようにただ立っている。
はその女性を見て、一瞬何か引っ掛かるものを感じた。それが何かはよくわからなかったが。
やがて女性の許へ辿り着くと、容姿がよくうかがえる。きれいな顔をした、美しい女性だった。
彼女はの顔を見ると、目を見開き、驚愕したが、一瞬のことで、も瑠璃も気づかなかった。

「遅かったじゃないか。真珠姫ならこの先だ。はやく助けてやれ」
「何者だ?なぜ、真珠の名を知っている?」
「あなた…どこかで会ったことあるかしら?」

不思議そうに首をかしげ女性に問う。すると、女性は首を振る。

「ない、それよりも、君、コイツらとあまり関わらない方がいい。」

女性は話を切り替えた。瑠璃を顎で指し、嘲笑する。
はムッとして、眉を寄せる。

「コイツらって、珠魅にって事?」
「当たり前だろ。」
「…珠魅と関わったら不幸になるから?」
「そうさ。」

はん〜。と唸り、頬をかいた。少し返事に困っているようだった。瑠璃は何も言わずに二人の会話を聞いている。
珠魅と関わったら不幸になる。その言葉の返事が、少なからず気になった。

「別にいいじゃない。ただ、困ってる人がいるんだから、それが珠魅だろうとなんだろうと
 関係ないじゃない。珠魅だから助けないなんて、変よ。それに、不幸になるなんて、失礼じゃない?
 珠魅だって同じ、生きているのに。関わったら不幸になるだなんて、珠魅がかわいそうよ。」
「…君は、とても変だ」
「よくいわれる。」

がおどけて笑う。だが、心の中では複雑に思いが巡る。――――この人、あの人に似てる…。
今も宝石店で宝石を磨いているであろう、彼を思い浮かべてそっと目を閉じた。

「きゃあああああああああああああ!!!!!!!」

目を閉じて刹那、恐怖が滲んでいる、鋭い悲鳴が鮮明に届いた。
二人は悲鳴の音源まで反射的に駆け出した。女性は一人、複雑な顔をして佇んでいた。


ただ、困ってる人がいるんだから、それが珠魅だろうとなんだろうと関係ないじゃない。
彼女の言葉が、頭の中で幾度となく繰り返された。