職業:怪盗




「ユーリエス氏、お任せください。ネックレスは私どもが責任をもってお守りします。」

警備隊長が頼もしく笑って見せた。ユーリエスは緊張しきっていた顔を少しほぐして、ああ。と頷いた。
内ポケットにしまっていた予告状をもう一度見る。

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今夜12時、館にあるネックレスをいただきます☆

怪盗

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ネックレスは、ユーリエスの命よりも大切ともいえる物だった。いまは厳重にショーケースに入っている銅像に飾ってある。
ショーケースの周りは何十人もの警備員が配置されてあり、一見、盗み出すことなんて不可能だと思われる。
だが、相手は大怪盗。どんな手を使い、鮮やかに盗み出すのかわからない。だが、盗み出されてはユーリエスの一生は
すべて台無しになる。それほど大切なネックレスなのだ。そんなネックレスを盗まれたら、それこそ一生のおしまいだ。
なんてったって、あのネックレスは…。

「主人、あと10秒で約束の時間です。」

警備隊長がちらりとショーケースに飾ってあるネックレスを見た後、時計とにらみ合い、ぶつぶつと秒読みし始めた。

「3…2…1…っ!?」

バリーン!とガラスが割れる音がしたと同時に突然明かりが消え、真っ暗になった。
辺りが騒然とする。ざわざわとするなか、警備隊長が「明かりを早く!」と言う声が聞こえてきた。
少し経ち、やっと明かりが戻った。すると、先ほどまで確かにあったショーケース内のネックレスが忽然と消えていた。
しかも、ショーケースは割れていない。銅像に飾ってあったネックレスが消えているだけだった。

「ネックレスが!…あ、あれは!」

見れば、ステンドグラスが美しかったあの窓が無残に割れていた。そしてそこには、ネックレスをくるくると指で弄ぶ
人影が見えた。白いマントにシルクハット。黒い蝶ネクタイに、モノクルを装着してまさしく怪盗、と言う格好をした
美しい女性が居た。彼女こそが、何かと噂の美人怪盗だ。

「警備隊長殿、詰めが甘くってよ?この汚れたネックレスはちょうだいするわ。ばいびー!」

妖艶に微笑んだ怪盗は、割れた窓から飛び去った。残ったのは、割れたガラスと、沢山の警備員と、館の主人。
暫く沈黙が続き、主ユーリエスがハッと我に返り、警備隊長の胸倉を掴んだ。

「な、なにをしていたんだお前らは!!あれは…あのネックレスは…!!」

血相を変えて血眼になって警備隊長を責めるユーリエス。
警備隊長は顔を顰めて「も、申し訳ない…。」と謝る。主人は警備隊長を離すと、急いで自室に戻り、震える手でテレビ
の電源をつけた。すると…

『な、なんと!何者かによって盗まれた時価2億ルクにもなるネックレスが、何事もなかったかのように戻っています!』

レポーターが興奮気味に実況をする。ユーリエスの顔から脂汗がにじみ出る。

『なにやら紙が落ちています…こ、これは!』

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お宝はかのユーリエス邸にあり。奪還完了☆

怪盗

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『これは…!なんと、怪盗がネックレスを奪還した模様!そして過去にこのネックレスを盗んだ犯人は…
 ユーリエス氏である様子!急いでユーリエス氏を捕まえろ!!!』

この世の終わりのような顔で崩れたユーリエス。遠くから警備員たちのどよめきが聞こえてくる。
ああ、終わった…。ぼんやりとした頭の中で、それだけが浮かんだ。すべてが音を立てて崩れていく。

「ふふっ、悪は消えるのが宿命。」

遠くから双眼鏡でユーリエスのことを見ていた怪盗が、残酷なほど美しい笑顔で呟いた。