可愛いね、と言いたい




「うわぁ・・・」

水面に映る自分をしげしげと見つめる。
自分が映っている。と、当たり前のことだがなぜだか酷く感動してしまう。

「面白い・・・」

色んな表情をしながら水面に映る自分を見る。
水に映る自分は、鏡で見る自分とはまた違い、新鮮である。



揺れる水面に写る、揺れる自分の姿を見て、百面相をしている人がいた。
その人を見て、カイルは微笑む。足音を忍ばせて近づくが、一向に気づかないで百面相をしている。

「わっ!」
「きゃっ!?!?!?」

びくっと震えたと思ったら、足が縺れて湖に落ちそうになる。
慌ててカイルが抱き寄せて危機は逃れた。
百面相をしていた人―――――は、深呼吸を繰り返す。
落ち着いた後、カイルを見るなり、思いっきり顔を顰めて胸を押す。

「な、カイルじゃない!びっくりして落ちそうになったでしょ!」
「なはは、ごめんごめん。まさかここまで驚いてくれるとは、驚かした甲斐があったよー。」

さも嬉しそうに笑いながら、カイルが頭を下げた。
の顔は一向にしかめっ面だが、カイルの一向に尽きない笑い声に
とうとうが表情を緩めた。

「いつまでも笑わないでって、いい加減本気で怒るぞ?」
「怒った顔も可愛いからぜひぜひ!」
「むかつく!カイルむかつく!もう知らない!」
ってばーごめんごめん」

ぷい、と顔を背けて歩き出すと、相変わらずヘラヘラしたカイルがついてくる。
後ろからカイルの声が聞こえてくるが、は知らん振りして歩き続ける。
とうとう、本拠地の周りを一周してしまった。

「もう、カイルのせいで一周しちゃったじゃない!」
「オレのせい?オレを無視して歩くのせいだよー」
「ま、いいやぁ。私はもう歩くのをやめる。」
「じゃあオレも!」

先ほどの危機一髪の場所で、二人は並んで水面を見つめる。
さっきは自分しか映ってなかった水面に、今度は二人映る。
二人並んで映る画はあまり見ないので、改めて見ると、矢張りとても新鮮である。
それはカイルも同じらしく、水面に映る二人の姿をしげしげと見つめている。

「やっぱりオレ、カッコいい!」
「湖に落ちちゃえ、一生陸には上がってこないでね」
「ウソウソ、なんかさー二人並んで映ってるって新鮮だよね」
「うん!私も思った!」

キラキラ輝く水面、はその水面に吸い込まれそうになる。

「なっ!?」
「こうしてたほうが恋人っぽくないー?」

腕を絡めてきたカイルに驚いたは振り仰ぐ。
そこには悪戯っぽい笑みを浮かべたカイル。
今度は水面を見ると、横顔だが確かに悪戯っぽい笑みを浮かべるカイルがいる。
そして、思った以上に焦ってる自分がいる。そんな自分が情けなくて、水面から顔をそらす。

「恋人じゃないでしょ!!!!」
「えー?でもオレはが好きだよ?」

実は真面目な告白、だったりもするが、軽い感じで言ったのがいけなかったのか
はバッと腕を振り解き、顔を赤くしてキッと睨んだ。

「カイルは皆が好きなんでしょ!」
「ヤキモチ?がヤキモチ焼いてるー!」
「ややややややや焼いてない!」
「動揺してる動揺してる!」
「ししししししてないよ!」

顔を真っ赤にして否定する彼女が、とても可愛らしい。
カイルは微笑を浮かべて、を抱きしめる。華奢な彼女はすっぽりと胸に収まった。

「ここまでするのは、本気で好きな人だけだよ」

耳まで赤いにそっと囁くと、はゆっくりと顔を上げた。
その表情を見て、カイルは顔に出るくらい驚いた。

「ほん、とぉ・・・?」
「―――ホントだよ。」

なんと、あのが泣いていたのだ。
何があっても涙を見せることの無かった彼女が、今泣いている。
しかも、オレの言葉に――――――。
胸が締め付けられるのが感じられる。

「ほんとの、ほんと?!」
「ホントだよ。ホントのホント。オレは大分前からしか見えてなかったよ」
「で、でも、会う人会う人口説いてたじゃない・・・!」
「あれが本気なわけないでしょー?」
「わ、私!口説いてるカイル見ててずーっと胸がもやもやしてたんだから!」

目に涙をためて怒鳴るに、カイルは素直に「ごめん。」と謝る。

「ゆ、許さないもん」
「じゃあ、キスしたら許してくれる?」
「・・・っ!?」
「ていうかするよー?」

否応なしにカイルがにキスをした。
たった一度のキスに、は顔を赤くして何やら言いたそうな顔をしてカイルを見つめている。

「す、するなら・・・誰もいないところでしてよ」
「・・・誰もいないですけど」

あたりを確認するが、誰もいない。だれのことを言っているのか?

「水面の私たちがいるわ!!!」
「・・・・ぷっ、くく・・・あはははははははは!!!!」
「な、何で笑うのよぉ!」

予想外の答えに、カイルは我を忘れて笑い出す。
なぜ笑われたのかいまいち理解していないは、顔を赤くしてカイルの胸に顔を埋めて隠した。

、可愛いよ。」

笑いが収まった彼からの、真剣な言葉。

「・・・・ありがと。」
「てか、バカワイイ!」
「バカワイイって何よ!?」