僕はどんなときも君の事を想っているから




「ねえ」

太陽の下、気分よさそうに釣りをしていた君は、それまでと一変して不機嫌そうに僕を見た。
うん?僕は笑顔で君の問いかけに応える。
女心は秋の空?ってところかな。コロコロと変わる君の心。

ってさー、女の子にモテモテよね」

くっ――――笑い出しそうになるのをどうにかこらえる。
なんだ、やきもちか。僕は耐え切れなくてとうとう噴出してしまった。
なんて可愛いんだ。君は。

「わ、笑わないでよ!だってさ・・・訓練してると訓練所は女の子でいっぱいになるし」

それよりも圧倒的に君を見に来た男のほうが多いだろう?
とは言わずに、ただそうかな?とだけ答える。
やきもちを焼かれるのもいいものだ。なんて思っていたりもする。

「ねーえ?はどっかいったりしないよね?」

先ほどまでの不機嫌な顔とは一変して、心配そうに親にすがる子供のような顔になった。
ああ、この子は僕が紋章を使って死なないよね?と遠まわしに言っている。
そういえばの兄は、を裏切って敵国に言ってしまったと聞いた。
親しい人がいなくなるのはもうイヤなのだろう。それは僕とて同じだ。

「僕はどこにもいかないよ。君こそ、突然帰っちゃったりしないように」
「さあ、それはどうかな?だってわからないもの。自分の意思で向こうに帰れるとかじゃないから。」

そしてまた釣りを続行した君。僕もそれに続き釣りをすることにした。

・・・」
「ん?」
「貴方の心はどこにあるの?」

心の在り処――――
僕は空を見上げて唸る。僕の心は僕の中にしかない。でも、そういう意味の言葉ではない。
隣のは悲しげな顔で真剣に見つめている。こんな顔を見たのは久々かもしれない。

「僕の心はね・・・」

知ってるくせに。
でも、僕の口から言ったことがないから。
僕が臆病で、僕が恥かしがりやだからそうやって求めてくれるんだよね。
いや、何処かで僕が君が求めてくれるから。と思っているから言わないでいるのかもしれない。
だから、今言わなければいけない。

「―――――の元にある。」

釣具をおき、恐る恐るの肩を抱き寄せた。
僕が普段そういうことをしていないから、そういうことには慣れていないは一瞬
震えた。しかし、緊張を解いたようで僕の肩に凭れ掛かった。

「そ・・・か――――」

も釣具を置いた。

「あたしの心は・・・」

僕のところ・・・かな?
勝手な憶測を立てる。

「どこにあるんだろう」

想定外の答えに、僕は内心吃驚した。
チラリ横目にを見るが、とても穏やかな表情で海を眺めていた。
他意はなさそうだ。

「どこに留まることもなく、海の上を漂流船みたいに漂うんじゃないかな」

どこにも留まることなく、か。それはもちろん、この時代に限らず未来でもそうなんだろう。
では、今は?今はどこをさまよっているの?

「その漂流船は今、僕の近くにいるかい?」
「何いってるの?」

その言葉に、ぐっと息を呑んだ。次の答えはそんなわけない?それとも――――
淡い期待と小さな恐怖を胸に、僕は次の言葉を待った。

「その漂流船は、あたしを想ってくれる限りずっとそばにいるわ」

肩に凭れていた顔を上げて、僕らを照らす太陽のような笑顔になった。
僕もつられて笑顔になり、の唇にそっと自らのをつけた。

「じゃあ、君の漂流船はずっと僕のそばだ」
「どうかしら?だって貴方はモテモテだし」

わざと怒ったように頬を膨らませて、僕から離れた。
また、やきもちというやつか。今度は耐えることなく豪快に笑った。

「なっ、ね、ちょっ ―――――――」
がやきもちをやくなんて・・・さっきもそうだけど可愛い。それに、君こそモテモテじゃないか?」
「あたしだって人間よ?やきもちぐらいやくわ」

愛らしい。こんな君を手放すもんか。

「僕は何処にも行かない。誓うよ」
「なぁに突然?」
「会話を繰り返してみた」
「え、さっきの?」
「そうそう」
「じゃあ次は・・・貴方の心は何処にあるの?ね」

クスクス笑い合う。
君がいれば何もかもが楽しく感じられる。
願わくば、君も同じだといいけど。

「僕はどんなときも君の事を想っているから。だから君の心はいつまでも僕のものだ」

そういうと、「そうね」と嬉しそうに君は笑った。