、おはよう。」
「サイア…。おはよう。」

すれ違った二人は挨拶を交わした。それは他愛のないことだが、交わした後の二人の表情は
なぜか交わす前の顔とは違って見える。清々しいような、爽やかなような、そんな顔。




君が僕を愛してくれるのか?




俺はサイアリーズが好きだ。幼い頃から、ずっと、ずっと。

幼い頃から、アル、サイアとずっと一緒に居た。
女王騎士である俺に、身分の差なんて関係なしに、歳が近いと言う理由で女王の計らいで友達になったのだ。
最初は身分の差を感じて引き気味だった俺だが、優しいアルと、人懐こいサイアが俺の心を次第に開かせた。
そして、サイアに恋した。だが、この気持ちを伝えるつもりはない。しまっておくのが利口だと思うし。
伝えて、今までの幼馴染と言う関係が崩れるのが怖かった。好きな人に好きって伝えるの事が大事だと判っている。
でも…踏み出せなかった。俺は弱いから。それに、サイアには婚約者がいる。伝えた所で迷惑だろう。


―――それでも好きだった。

だから挨拶を交わせるだけで嬉しかった。



様。アルシュタート様が呼んでいます。部屋に居るそうです。」
「わかった、今行く。」

なんだろう、と思いながらもアルの部屋に急いだ。



彼女の部屋の前には女王騎士が立っていて、俺の姿を見つけるとサッと避けて「姫がお待ちだ。」と言った。
俺は頷き、ノックする。「どうぞ。」と声がすると、俺は扉を開けて中へ入った。中にはアルシュタート以外居なかった。

「待ってましたよ、さあ、そこへ座って。」

アルが微笑を浮かべて、アルの目の前においてあるイスを勧めた。

「ありがとうございます。」
、そんなに硬くなるな。別に仕事の話をするわけではない。」

そういわれても、プライベートと仕事とではわけなくてはいけない。

「…はあ。ですが俺はまだ勤務中ですので…。」
?姫の命令は?」
「……絶対。」
「よくお分かりで。」

アルの押しの強さは相変わらずだ。
ガキの頃は勤務中でもお構いなく私語を使っていたが、大人になるにつれてそれも変わっていった。
自分は女王騎士で、彼女は次期女王。主従関係で結ばれているのだから、けじめをつけなくては、と思い始めたのだ。
だが、アルはいやらしい。しょっちゅう姫の力を利用して俺の勤務モードを解かそうとしてくる。

、呼び出した理由は他でもない、わらわの妹、サイアリーズのことです。」
「はあ…なぜサイアのことで俺が?」
「まあまあ、わらわの話を聞きなさい。もサイアリーズの婚約の事は知っていますね?」
「勿論。ギゼル殿との婚約だよな。」
「ええ。女王が決めたことですから仕方ありませんが…正直わらわは嫌です。」
「なぜ?」

政略結婚だからか?

「わらわはと結婚して欲しいのです。」
「はあ!?」
「そうすればも血縁関係になれます…。」
「…血縁関係になれなくても、俺たちは主従関係で結ばれているから、な?」
「それだけじゃありません!…サイアだって!」
「ほらほら、変な妄想はやめて勉強しろよな。じゃ、俺は行くぞ。」
!」

俺は半ば逃げるようにアルの部屋を出た。俺だってサイアと結婚したいさ…。
でも無理な話なんだ…。そんなことは自分が一番わかってる。あいつは俺のことを幼馴染としか見てない。

「おや、じゃないの」

この声は、サイア?
振り返ると、やはりサイアがいた。俺の心臓が急に騒がしくなる。

「サイアリーズ様…」
「よしておくれよ、あたしとあんたの仲だろ?」

サイアと俺の仲…
『幼馴染』
そりゃあ、他の人よりも近しい。だが、そこから抜け出せない。一番抜け出しにくい位置に居るんだ。

「…そうだな。ところで、ガレオン殿はどうした?」
「ああ、ちょっと撒いたんだ。その…と話したくてね。」

何も知らないサイアは、俺の気も知らないで胸が締め付けられるようなことを言う。
照れたように微笑むサイアの姿に、俺はもう限界だった。頼むから、好きでもないのにそういう表情をしないで欲しい。
今までも何度もあった。期待を持たせるようなことを沢山言われたし、そのような行為もされた。
そしてそのたび落胆していた。そんなのはもう嫌だった…。誰だって傷つきたくないだろ?

「話したいっていうと?」
「大事な話なんだ。聞いてくれるかい?」
「勿論。」
「じゃあ、場所を移そうか…。」

なんだろう…。
全く見当もつかなかった。まさか、俺の気持ちに気づいていたとか。
…俺も男だ。腹を括ろう。あれこれ考えるよりも、覚悟決めるのが最善だろう。

「ここでいいかな」

ついたのは人通りの少ない場所。
小さい頃から太陽宮に居た俺だが、こんなところがあったとは知らなかった。

「よくこんな所見つけたな」
「暇人なもんでね、隅から隅まで太陽宮を散歩した賜物だよ。」

おどけて笑ったサイアにつられて俺も笑った。サイアといると安心できる。

「で、話だけどさ」
「ああ。」
「迷惑かもしれないけど、聞くだけ聞いておくれよ。あたし、の事…好きなんだ。」

俺は思わず目を見開いた。そんな馬鹿な…そんなわけない。大体サイアには婚約者がいる。
俺を騙してるのか?タチの悪い嘘だ…。信じて、嘘だと知って、涙なんて流したくなかった。
でも心臓はバクバク煩かった。

「嘘…つくな。」
「嘘なわけない!ずっと前からが好きだった…。」
「でも君はギゼル殿と婚約してるじゃないか」
「政略…だろ。あたしはあいつのことを愛しているわけじゃないよ。…ずっと、しか見てないよ。」
「本当…か?」

いまだに信じられない俺。でも、サイアの顔は真剣だった。彼女は嘘をついていない。
大体、こんなタチの悪い嘘なんてつかない。

「当たり前だろ。…てっきり気づいてるのかと思ったけど、案外そうでもないんだね。」
「君が…俺のことを?」
「うん…。」
「俺も…サイアのこと…ずっと好きだった。ずっと、ずっと…」
「っ!?そうなのかい!?」
「小さい頃から、サイアを好きだった。」

想いが一つになった。まさか、サイアが俺のことを好きだとは思いもしなかった。
だが…同じ想いだからといって、結ばれるわけではない。
現実と向き合えば、サイアはギゼル殿との婚約がある。
それでも、俺は満足だった。サイアは俺のことを好きだった。その事実だけで十分だった。

「…あの、それで、ごめん。まさか両思いと思わなくて…。その、婚約があるから…。
 恋人になるわけにはいかないんだよ…。」
「判ってるよ。その気持ちだけで十分だから。君が僕を愛してくれているなら…それだけで俺は大丈夫。」
「そっか…。ありがとう。あたし、のこと愛してるよ…。忘れないでよ?これから先も、ずっとずっと。」

恋人と言う関係になれなくたって、想いが通じていればいい。
君が俺を愛していると言う事実が、俺を支えてくれるから。
サイア、いつか恋人同士になれたら…いいな。いつか、な。




文かくって難しいね(´・ω・`)