マラッティーア・ダモーレ-malattia d'amore-





「はぁ…。」
「どうしたんですか旦那、ため息なんて、珍しい。」

縁側に腰掛けて物憂い気にため息をついている真田幸村に、猿飛佐助が驚愕の表情を浮かべた。
悩みなんて無縁です、とラベルを貼っても可笑しくないほど悩みとは程遠い位置にいる彼が、ため息をついたのだ。
お館様に叱られたとか、そういう理由なのか。だが、だとしたらもっと鍛錬に励もうとするだろう。
優秀な忍も、上司のため息の理由は判らなかった。

「…ああ、佐助か。いや、なんだかため息が自然と出てきてな。」
「もしや、何か悩んでるンですか?俺様、相談乗りますよ。」
「おお!そうか。じゃあ、聞いてくれ。最近、殿を見ると、心臓が痛むんだ。なんか病気なのだと思うか?」

は?は?は?は??
この男今なんて言いましたか。佐助は口をぽかんと開けて幸村を見た。心臓が痛いって、それってつまり、

「恋。」
「鯉?」
「面白くもなんともないんでサブい洒落はよしてください。反応に困る。」
「むうう…恋でござるか。俺は恋なんてした事ないからな…。」

そりゃそうだ、と佐助は思った。小さな頃から武道一筋。
女の子なんて興味ないです的なオーラを放っており、恋人が居たことなんて一度もない。
顔は良いくせにお館様一筋なんで、女の子からは近づきにくい存在なのだろう。

「佐助、俺はどうすればいい?」
「どうもこうも、押して押して押しまくる!これ以外ないっしょ。女の子は押しに弱いんだよ。」

本当の恋なんてしたことないが、そう聞いたことがある。
幸村は何度か頷くと、よし!と立ち上がった。

「じゃあ、今から殿のところへいってくる!」
「行って?」
「押して押して押しまくる!」
「はい、いってらっしゃい。」

佐助は手を振り幸村の後姿を見守った。さて、忍んでまいりましょうかね。
小さな音をたてて、佐助は姿を消した。



殿ぉぉおぉおおぉお!」
「はい?って、ええ!?」
「うおおおおおおお!!押して押して押しまくるうううううう!!!!」

背後から自分を呼ぶ声をして振り返ったは唖然とした。幸村が顔を赤くして突進してきているのだ。
そして次の瞬間には、背中を押された。何のつもり!?とは背中を押されて困惑しつつ思った。
父である信玄との殴りあいも訳判らないが、これのほうがよっぽど訳わからなかった。

「あの!幸村様!止まって…!!」
「だー!旦那ぁ!何してるんですか!」
「…む!佐助、おぬしこそ何をする!」

佐助が音も立てずに現れて、幸村を後ろから羽交い絞めにする。
こうでもしないと彼は止まらない。がよろよろしながらも止まり、ふうと息をつく。助かった。

「ごめんねちゃん。旦那ちょっととち狂っちゃって。」
「…でしょうね。」

突然押してくるなんて、狂った以外なんでもないだろう。
苦笑いを浮かべつつ、手を振って二人を見送った。



「何するんだ佐助!」
「何するんだじゃないよ!全く…」
「お前の言ったとおりにしたぞ!」
「意味が違う!押してって言われて、直接押す馬鹿、旦那以外いませんよ!」

これまでも、そしてこれからも見たことがない史上最強の馬鹿だろう。
こうまで馬鹿だと頭が痛くなる。

「じゃあ、どういう意味の”押して”だ?」
「”好きな人いるの?”とか”俺ってどう思う?”とか積極的に行くこと、だよ!」
「…ああ、なるほど!それならそうと言ってくれればいいものを」
「そういったでしょうが!」

この人の部下でいいのかと、本気で心配になってきた佐助であった。














幸村お馬鹿過ぎ。
マラッティーア・ダモーレと言うのは、恋煩いと言う意味です。