過去を映す瞳




時々、が酷く悲しげな目になるときがある。
そんなとき、私はどうしていいのか判らなくて、「…?」と名前を呼ぶのだが
「ごめん。」と謝られる。

の瞳は、何故そんなに悲しげなの?わかんないよ…。
今にも泣きそうな顔をされて、手をとって握ってあげることしか出来ない自分が憎かった。

ねえ…。あなたは優しいから、きっと過去に犯した罪を思ってそんな悲しげになるのでしょ?
とても優しくて、不器用な

「ねえ、?」
「何。」
って、優しいよね。」
「まあね。」
「優しいくせに不器用で、妙に人の不幸には鋭くて、なのに自分の事は後回しで…。」
「…買いかぶりだ。」

そう言って言い退けるの顔を、私の顔に近づける。
すごいドキドキする。なんて整った顔なんだろう。
それでも、彼の瞳は沈んでいた。深い深い海の底、誰の声も聞こえない。誰の顔も見れない。

「こんなに悲しそうな目をしてる。ねえ、何かあったら泣いてもいいんだよ?」
「そんなこと…」
「そんなことあるわ。私は、泣いてるあなたの手をとることしか出来ないわ…。
 でも、泣ける場所にはなれる。お願い、無理しないで…。おねが…い。」

言っている間に、なぜか私が泣いてしまった。
は私のことを抱きしめて、「なんでお前が泣くんだよ…。」とポツリ呟いた。
前進に電流が走ったようにビクッとなった。初めて、男性に抱かれたからだ。

「君は、いつでも人の心配ばかりする。」
こそ。」
「お人よしなんだ。」
もっ!」
「…なら僕らは似ているんだ。似てるから、こんなにも痛みを分かち合える。そうだろ?」

不器用で、お人よしで、確かに私たちは似ているのかもしれない。

「でも…私はあなたの悲しみを受け取ってないわ。」
「僕の目がどうとかいっていたろ?それだけで十分。人殺しの罪は、僕一人でいいんだ…。」
「私は!私はの力になりたい!支えになりたい!」
「その気持ちだけで嬉しい。ありがとう。」
「やだよ…っ!!」

痛みを共有できれば、はずっとここにいてくれるような気がして。
遠くへ行ってしまいそうなを繋ぎとめてくれるような気がして。

「僕は…罪びとだ。人を殺し続けた、罪びと。君は、違う。」
「違うわ!は罪びとなんかじゃない!罪びとなんかじゃ…っ!」
「ありがとう…。」
…っ」

涙が溢れる。止まらない。呼吸が乱れる。

「…女の涙は苦手なんだ。」
のっ…せい、よ!責任…とれっ!」
「なら、僕は君の支えになろう。ただ、流浪人だ。いつどこへ流れるか判らない。」
「知ってるわ…。」
「なら、いいだろ?」
「………うん。」

見上げたの瞳は、悲しみは宿っていなかった。いつもどおり、真っ黒な瞳。
それを見て、私は微笑んだ。よかった、の役に立てた…のかも。

「さあ、僕はご飯の準備をするから退いてくれ。」
「退いてくれって何よ!あんたから抱きしめたんじゃないのー!」
「雰囲気でそうなった。」
「っもぉー!」

捻くれ者は私をさっさとはなし、台所へと向かった。
まだの感覚が残る全身を抱きしめて、私は暫くそのままでいた。