同じ夢を見れたら、きっと強くなれる。




怖いものを見た。
ハッ、と目が覚めてそれが夢だと気づき、ほっと息をつく。
恐怖が全身を走り、ぶるっと身震いをする。額には脂汗がにじみ出ていて、私はそれを腕で拭った。

「ロイ・・・」

恋人の名を呟きむくりと上体を起こす。
一人じゃ怖い。普段そんなに精神的に弱い人間ではないけど、夜と言うせいもあって
とても怖かった。彼に迷惑をかけてしまうのは忍びないが、今はあの人に会いたかった。
何も持たずに部屋を出て、彼のところへと急いだ。



ノックをして、暫く待つが部屋の中で動く気配すらしない。

熟睡中?
不安になった私は、だめもとでノブに手をかける。
ゆっくり、ゆっくりとノブを回すと、なんと扉が開いた。
私は息を呑み、扉を開ける。真っ暗なロイの部屋へと泥棒のように入り、鍵を閉めた。

「ロイ・・・?」

ベッドへ忍足で近寄ると、無防備な寝顔を浮かべてロイが熟睡していた。
その顔に暫くの間魅了された私は、ロイが身じろぐまでずっと見とれていた。

「ん・・・」

私の気配に気づいたロイが、うっすらと目を開けて暗い部屋を見回している。
一層濃い影になっているだろう私の姿を目に留めてロイが目を見開いた。

!?」

寝起きとは思えないほどの声量で私の名を呼ぶロイ。
何か恐ろしいものでも見たかのような顔で私を見て、口をパクパクさせている。
――――面白い。しかも可愛い。

「な、ななななんでがここに!?」

動揺しきっているロイの近くへと赴き、跪いて目線を同じくらいにする。

「鍵が開いてたの。」
「げっ・・・俺としたことが・・・。」

ばつの悪そうな顔で頭をかき、寝る前の記憶を手繰り寄せているのが見受けられた。
すると突然、夢の内容がフラッシュバックする。身体が震え、思わず耳を覆う。

「ど、どうした?」

私の様子を見て、ロイが心配そうに声をかける。
苦笑いを浮かべて「大丈夫」と返す。

「本当か?何かあったんだろ・・・?」

心配性な彼。
「あのね、笑わないでね?」
「お、おう?」
「怖い夢を見たの。」
「そ、か――――」

察しのいいロイが、声のトーンを下げて呟いた。
ロイの手が、私を安心させるように頭をぽんぽんと叩いた。
その掌に安心感を覚え、先ほどの恐怖感は徐々に抜かれていった。

「で、俺んとこにきたと?」
「そういうこと・・・。」
「じゃあ、今日は俺と寝ろ。」

突然の申し出に、私は目をまん丸にして驚く。
暗くてよく判らないが、きっとロイは真っ赤になっているんだろう。
私は何度も頷き、布団を持ち上げて一人分のスペースを空けて待っている。

「あったかい・・・。」

空けられたスペースに入り込むと、ぬくもりが感じられた。
私の独り言のような呟きに耳を傾けたロイが、「それは俺の愛ですから。」
と、意味不明なことを言った。私がくす、と笑うとロイが軽く蹴りを入れてきた。

「痛いですー。」
「うっせ、お前が笑ったからだ!」

天井を見上げながら他愛ない会話を交わしていると、ロイが私を黙って抱き寄せてきた。
布越しに触れ合う肌。確かに存在するロイに、私は酷く安心した。
人肌って凄い―――――。なぜか感心する。

「こうやってさ」
「―――うん?」
「二人一緒なら、何も怖くないから。」

ロイがらしくない言葉。
これは総て、私を安心させるために言ってくれてる言葉。
きっと恥かしがっているはず。なぜなら、一向に私を見ようとしないで天井ばかり見ているから。

「怖い夢なんてみねぇーよ。俺と一緒なんだからなっ!俺の夢見ろ!」
「・・・それはわかんないなぁ。」
「夢の中でも一緒にいろ!これは命令だからなっ」
「ふふ、わかった。」

こんなに素敵な人が、私の恋人。
きっと二人一緒なら、怖い夢なんて見ない。
なんていったって、天下のロイ様が私のそばに居て、怖い夢を追い払ってくれるから―――。

「じゃあ、手を繋ごうか。」
「おう。」

勿論、指と指を絡める恋人つなぎで。
次見る夢は、君と一緒にいたい―――夢の中でも、ずっと――――