01×予告状
怪盗と言う怪盗がいました。彼女はとても美人で、右手に宿した盗みの紋章で、何でも手中にいれました。
あの国の王も、あの国の宝も、すべて手に入れ、彼女の手に入らないものなんて、一つもありません。
いまもどこかで、予告状を出して欲しいものを盗み続けています。
本拠地の図書館で、「怪盗」と言う本を発見したフリックが、に見せた。
するとが、うーん。と少し不機嫌そうに唸った。
「本になんてなってるのね。本人の許可もなく、何してるのかしら!」
ぱらぱらと本を捲り、ぶーぶーと文句をたれる。フリックが苦笑いをして、「いいじゃないか。」と頭をぽんぽんした。
は本を閉じ、矢張り不服そうに再びうーん。と唸った。その姿を見て、フリックはとても何百年と生きてるとは思えない
と思った。自分より年下に見えてならない。
「別に本にするのは構わないけど、これ、嘘ついてるもの。」
「嘘…?」
本を手に取り、「どこをだ?」と尋ねた。
「”手に入らないものなんて、一つもありません。”ってとこ。」
「なんでだ?の紋章を使えば、何でも手に入るんじゃないか?」
「…フリックはわかってないわ。」
更に不機嫌そうに呟いたに、フリックは焦る。
「わかってないって、どういうことだ?過去に盗めなかったものがあるのか?」
「あるわよ…。今、盗みたくてたまらないものがあるの。でも、なかなか盗めないの。」
「へえ…の力を持ってしても無理なのか。どんなお宝なんだ?」
を興味津々な様子で見る。すると、少し目を伏せて、答える。
「お宝…ってわけじゃないよ。それに、盗む方法も知ってるの。でもね、その方法を使ったって、
結局それはわたしのものにはならないし、悲しくなるだけなの。でも、それがほしいの。」
喉から手が出るほどほしいもの。すぐそばにいるのに、手に入らない。もどかしい。
でも、それを手に入れることが出来るのは彼女だけ。なんて皮肉な事実。
「所詮怪盗なんてその程度よ。本当にほしいものは、何一つ手に入らない。」
人の心なんて、盗めないの。
「フリック?」
「ん?」
今隣にいて、微笑んでいる彼の心を、心底手に入れたいと思っている。
でも、予告状を出すにはまだ調査が足りない気がする。…否、足りているけど、手に入れるためのモノが
ないだけ。まだ、自分の力では彼を手に入れるのは無理だ。いや、いつまで経っても無理かもしれない。
それでもは彼の心がほしかった。彼を夢中にしてやまないオデッサから盗んでみせたかった。
「あなたの心、盗んでみせます。」
不敵に笑って、予告状代わりに頬にキスをしてみせる。突然の出来事に、フリックは目を白黒して驚いている。
「ばいびー!」
ウインクをして、その場を去った。さあ、ここがスタートライン。彼の心を盗んでみせる。
盗みの紋章を使って、煙幕と共に姿を消した。取り残されたフリックが、顔を真っ赤にして先ほどキスされた頬を触る。
「が盗めなかったものって…。」
俺の心?
鈍感な男が、女怪盗が渇望していたものに気づいた瞬間だった。予告状を自身の頬に残していった
彼女の姿を思い浮かべ、更に顔を赤くした。
「既に…盗まれてるっての。」
ニヤつく顔を必死に引き締めながらも、ポツリとつぶやいた。