お風呂場ラビリンス




鼻歌を歌いながら着々と服を脱ぐ。
今日は女友達と風呂には入らずに、一人で風呂に入る。
今は誰も風呂に入っていない。のんびりとできる!

「はー疲れたっ!」

早く風呂に入って疲れを癒したい!と言う思いが服を脱がすスピードが早くした。
全裸じゃ流石に気恥ずかしいので、タオルを一枚身体に巻きつけて風呂場へと駆け出した。

「ひゃっほ〜!」

誰も居ないのをいいことに、湯の中に飛び込んだ。よい子は真似しちゃいけません。
ばちゃん!という音とともに水しぶきがあがり、顔やら髪やらに水がかかる。
気持ちいい!丁度いい湯加減に、私はふぃー。とため息をついた。

はぁ・・・幸せ。

思わず眠ってしまいそうな心地よさに、目を瞑る。
と、ここまではよかったのだが――――。

「はー疲れたっ!」

と、服を脱ぎ捨てる音とともに聞こえてくる声。この声は絶対にロイ。
しかも台詞がかぶってる!まさか、まさかここにくるの・・・?いやな予感が胸をよぎる。
私の抜け殻(服)に気づいてくれればいいんだけど・・・。

「ひゃっほ〜!」

またも私と同じ台詞がかぶる。
そしてその声と同時にどたばたと足音が聞こえてくる。
だが、その足音も突然止まった。
恐る恐る、タオルをしっかりと握りつつ私が振り返る。すると――――

「ロイ!?」
!?」

腰にタオルを巻いたロイが、一歩踏み出した状態で固まっていた。
スラッとした身体に、引き締まった胴体。細い足。長い茶色の髪。
まさしくロイだった。

「な、なななななんでお前がここに!?」
「それはこっちの台詞よ!!私の抜け殻が見えなかったの!?」
「見えねぇーよ!!!は、はやくでろよバカ!」
「イヤよ!そっちがでてって!それに、バカって言った方がバカなのよ!?」
「何ィ!?」

やがて布一枚巻いただけの裸だ、ということに気づき、私は顔を赤らめた。
ロイも気づいたようで、くるっと背を向けた。

「じゃあ、俺が出るよ・・・。」
「べ、べつに入ってもいいわよ。但し、私にイヤらしい視線を送らないでよね!」
「ばっ、送らねぇっつーの!自惚れんなハゲ!」
「ハゲてないー!」

言い合いを終えて、ロイが端っこの方に入った。
ちら、とロイを見ると目が合って、「見てんじゃねぇよ!」と怒鳴られた。
そういうお前も見てるんじゃない!と言う叫びは心の中にしまっておいて、私はそっぽを向いた。

「そういえば、お前のことリオンが探してたぞ・・・。」
「え、リオンが?」
「一緒に風呂入りたかったらしいぜ。」

リオンと私は仲がいい。まだ私のことを探してるのかな・・・?そう思うとちょっぴり申し訳ない。
そういえば、ロイってリオンのこと好きなんだっけ?

「あんたって、リオンのこと好きでしょ?」
「はぁ?好きじゃねぇよ!」

とかなんとかいっちゃってるけど〜、顔赤いっての!
にや、と思わず笑うと、ロイが凄い形相でこちらに迫ってきた。
おいおいロイ!あんたほぼ裸ってこと忘れてるでしょ!?

「俺はっ!」

見上げれば見える位置にロイがやってきた。
何故だか高鳴る胸。なんで?恥かしいから?それとも――――

「お前のことがっ!」

今までよりずっと赤くなっている顔。お前のこと・・・が?

「好き!なの!!」

怒鳴るような告白。私は呆然とロイを見つめる。
ロイが?私を?す・・・き?
言葉の意味を認識した瞬間、心臓が早鐘を打ち始めた。顔が熱くなる。

「わ、私は・・・」

私は、ロイのこと、好きなのかな?自分の気持ちがわからなかった。

「お前が俺のこと好きじゃなくても、いつか俺のこと好きにさせてみせる。」

強引な言葉。その言葉とともにロイの顔が近づいてくる。
お湯で濡れた手で顎を持ち上げられ、ロイと真っ向から見詰め合っている。
バカみたいに早い鼓動、きっと彼に気づかれている。布一枚しか巻いてないって、とっても不便ね・・・。

「すげードキドキしてんだな。」
「う・・・ん。」
「俺も、負けないくらいドキドキしてっから・・・。」

ロイの平らな胸じゃわからないって。

徐々に近づいてくるロイ。無意識のうちに今からしようとしている行為を受け止めている自分。
もうすぐ、もうすぐで触れ合う。というときに、ロイが顔を離した。

「ごめん。何してんだ俺・・・。」
「あ!いや。いい・・・よ?」

気まずそうに顔を逸らしたロイに、私は慌てて何度も頷いた。
拍子抜けした顔でロイが、ほんと?と尋ねてくる。

「ほんとよ。」
「じゃ・・・。」

ゆっくりと時間をかけて近づいてくる。ロイの整った顔を最後に見て、私は目を閉じる。
真っ暗な世界だけど、ロイの気配が伝わってくる。もうすぐで重なり合う・・・。

とうとう唇が重なり合った。
初めてのキス。目を開ければ、真剣な顔をしたロイがしゃがみこんでいた。

「俺のこと、好き?」
「・・・・大好きかも。」

初めて判った。私、ロイが好きだったんだ――――。

「でも、ロイってリオンが好きなんじゃないの?さっきだって顔赤かったじゃない。」
「赤かった?それは多分湯に浸かってるからだと思うぞ。俺はが好きだ。」

言われてみればそうだ。
それにしても、初めて名前を呼ばれた気がする。いつも「お前」で、それがもやもやしていた。
これもきっと、好きだったからなの?

微笑を浮かべたロイに、今度は私からキスをした。
突然のことに、ロイが口許を押さえながら「不意打ちだ!」と叫んだ。

「これくらい予測しなきゃね!」
「無理だろ、どう考えても・・・。」
「そうだ、私ロイの背中流してあげる!」
「はっ!?別にいいし!!」
「やーだ。はい!早くでよでよ!」