サラリと言わないで欲しい。




太陽が真上に昇っているのにもかかわらずベッドに横たわり、指を絡めたりして
クスクスと笑い合っている。もぞもぞと動いているせいでシーツはグシャグシャで、一部剥がれていたりする。
朝から今まで、外には出ていない。外ではきっと護衛たちが待っているだろう。

「ねえねえ、リムと遊びたいな。」
「だーめ。今日は一日僕といるって約束だろ?」

上目遣いで請うが、は穏やかな笑顔でそれを却下した。
頬を膨らませてケチ。と講義するが、全くには効いていない。
それどころか、「可愛いなぁ」と頭を撫で始めた。

「明日は私のやりたいことをするんだからね?」
「わかってるよ。だから、今日はずっと二人きり。」

いつまでも絶えない穏やかな笑みには折れて、一頻り頷いた。
はだらんと無造作にシーツに投げ出された髪を一束すくい、愛しげにキスをする。

「いい匂いする。の匂いだ。」
「なんか変態チック。」
「だって、本当だもん。僕ものシャンプー使おうかな・・・。」
「いやよ、私はの匂いが好きだから、のままでいてよ。」

髪の人束を見て真剣に悩むに、の三つ編みを手に取り鼻に近づける。
の匂いが鼻腔をくすぐり、ふわ、と笑顔になる。
その様子を見て、嬉しそうに笑うと、の頭を自分の顎の下に持ってきた。

「こんな感じでずーっと僕だけのものにしたい。」
「独占欲って言うの?」
「そうかもね。あまり執着しない方だけど、君の事になるとそうではなくなるみたい。」

まるでその感触を楽しむかのように頭を撫で回すと、の首筋に手を持っていった。

「私もね、を独り占めしたいときあるなぁ。」
「本当かい?それは意外だ。」
「たとえば、リオンといつも一緒に居るじゃない?それがたまーにイヤだったり・・・」
「そんなこといったら君はいつもカイルと一緒じゃないか。」
「まあ、そうなんですけどー。」

王族である以上、いつ身の危険が迫ってくるかわからないので護衛を付けなければいけない。
と言うのは、確かに正しい。しかし、その護衛のせいで恋人同士二人っきりと言うのがないのは
流石に参るのだろう。

「一日でいいから、護衛なしでずっと一緒にいたいなー。」
「今も一緒にいるでしょ?」
「これは部屋を出ないからじゃないか。部屋を出たらいつもどおり、デートといっても4人になる」
「リオンとカイルが付き合っちゃえばいいのにー。」
「ははっ、意表をついた組み合わせじゃないか。」

リオンとカイルの姿を想像して、二人はほぼ同時に噴出した。

「合わなくもないけど・・・合わない?」
「矛盾してるよ。まぁ、リオンは良くも悪くもしか見えてないからね。」
「カイルもだ、カイルも女の子をよく口説いてるけど、本当はしか見えてないらしい。」

眉を寄せて言うに、は「ホントかなぁ?」と笑った。

「お腹すいた。そろそろご飯の時間よ、きっと。」
「ちょっと待って、時計見るよ」

肘を突いて軽く上体を起こし、時計を見る。すると本当にご飯の時間で、は「当たり」
と呟きの頭をぽんぽんと叩いた。

の腹時計は正確なんだね。」
「褒められてる気がしない・・・」
「そんなことないって、じゃあ行こうか。」
「うん!」

ベッドから降りて、歩き出した。ぐしゃぐしゃなシーツは後で直してくれるだろう。
の腕に自身の腕を絡めた。
部屋を出ると、それぞれの護衛が待っていて、二人が出てきた瞬間笑顔になった。

「お待ちしてましたよ王子!」
「姫様ぁ〜オレを置いていくなんて酷いですよ!」

確かに、それぞれの主しか見えていない護衛たちに、は苦笑した。



既に食卓を囲む、アルシュタート、フェリド、リムスレーア、サイアリーズ、ミアキスが
、リオン、カイルに気づいて、それぞれの反応を見せた。

「兄上!義姉上遅いのじゃ!」
と、リムスレーア。

「こんな時間まで何してたんだい?やましいことはしてないだろうねぇ」
意味深に笑うサイアリーズ。

「あらぁ〜、後で姫様と王子の部屋を見に行こうかしら」
ミアキスもサイアリーズに同乗する。

「羨ましいなぁ、!そんな可愛い婚約者が居て幸せ者だな!」
軽快に笑うフェリド。

「あら、フェリド。貴方にはわらわがいますよ」
ほほほ、とフェリドに笑いかけるアルシュタート。

「別にやましいことはしてないよ。ね、?」
「はい、してないです!」
「笑顔で敬語ってところがあやしいけど、まあいっか。」

あんたたちの仲のよさに免じて、と付けたしサイアリーズはちょうど運ばれてきた食事を見て
目を輝かせた。4人はフェリドに席に着くように促されて、それぞれの席に座った。
勿論は隣同士で、護衛たちはその隣に座った。

「では皆さん・・・」
「いただきます」

一同声をそろえて挨拶をし、食事を始めた。
カチャカチャと鉄同士が当たる音が食卓に響き、時折「美味しい」等と言う言葉が飛び交う。

「今日も美味しいね」

手を止めてに話しかけると、も手を止めて頷いた。

「そうだね。でも僕、の作る料理の方が好きだよ」
「もっ、もう・・・お世辞はいいよ。」

にこ、と笑顔を浮かべて言うと、は顔を赤らめて首を振った。

「お世辞なんかじゃないよ。でも一番美味しいのはぁ〜・・・」

そこで言葉をとめてチラ、とを見て頷いた。

「うん。そうだな。」
「え?何が一番美味しいの?」
「なんでもないよ。」
のバカー。」
「ほらほら、手が止まってるよ」
「はーい」

食事中にもかかわらずずっとしゃべり続けている二人を見て、サイアリーズは呆れたように注意した。
再び手を動かし始めるが、の方がまたに話しかける。

「そういえば昨日さぁー」
「こーらっ、。」

にこにことしているを見て、すかさずサイアリーズがとめに入った。
そうでもしないとの口は閉じない。だが、サイアリーズの言葉だけでははとまらなかった。

「まあまあ、夫婦水入らずだから見逃してよ。で、ー」
「夫婦水入らずってあんたねぇ・・・」

呆れたようにため息をついてヤレヤレといった表情で手を動かし始めた。
どうやらあきらめたようだ。


「なぁに?
「お食事のときくらい静かにしないと、キス一週間禁止だよ?」
「・・・・はい。」

の一言ではうな垂れた。の力は凄かった。
黙って手を動かし始めたを見て、はくすっと笑みをこぼした。



食事を終え、再び部屋に戻った二人は、いつの間にか誰かが直したらしい
ピンとしたシーツに飛び込んだ。ベッドのスプリングがきしむが、二人を難なく受け止める。

「ただいま」

横になったは、同じく横になったの頬に手を這わせて愛しげに撫でた。
は嬉しそうに目を細め、「おかえり」と囁いた。

「また二人っきり」
「そうだね。」
「いつまでもこうしていたいー。って思うのは、僕の独占欲が強いからかな?」
「ううん、それは違う。私だっていつだってといたい。に触れていたい。」

そういって綺麗に笑ったに、は照れ笑いを浮かべた。