破天荒な奴来る!
-猿飛佐助と俺-
武田。彼は武田軍軍主である信玄の実の息子で、武田軍の将軍でもあった。
幸村とは幼馴染で、戦績を競い合うなど仲も良い。
普段は冴えないのだが、努力を惜しまない青年。…なのだが、戦場に出ると人格が変わる。と言う奴だった。
そんなに頭を抱えつつも、強靭さには天晴れ。と言うこと信玄は今日も
に稽古をつける。
「おりゃ!とう!こんにゃろ!」
「ふっはっは!まだまだだぞ!」
「羨ましいな…お館様に手合わせしてもらえて。」
「幸村も次、かかってこい。」
「…!はい!!」
は伸ばし気味の無造作ヘアーを振り乱しながら死ぬ物狂いで信玄に斬りかかるが、
信玄は微笑を浮かべたままで、傷一つつかない。
彼は戦場でないと実力を発揮しないのだ。故に、信玄には敵わない。
しかし、戦場へでてしまえば信玄でさえ手に負えるかわからないほど強くなってしまうのだ。
「っはー!もうだめ、ごちそうさま!幸村いいよ!」
「まことでござるか!?じゃあ、お館様!よろしくおねがいするでござる。」
は汗を袖で拭って、水分を補給しようととっとと立ち去った。
既に幸村と信玄の暑い戦いが催されていて、あそこにいるともっと暑くなる。
と考え水分補給してもここへは戻らないことを決めた。
「あーらちゃん。どしたの?」
「うお、佐助。どしたのって、親父に手合わせしてもらってたんだよ。涼しい顔しやがって…」
汗一つかかずに涼しげな顔をして暑苦しい格好をしている佐助を見て、露骨に嫌な顔をした。
まあまあ、と佐助は宥めて、についていく。
「何処行くの〜?俺様もついてく!」
「なーにが俺さまだっつの。水飲みに行くんだよ。ついてきてもつまんないぞ」
「いーのいーの。ちゃんと一緒ってのが良いんだから!」
オエッと吐く真似をしつつも、川へと向かう。佐助はニヤニヤしながら、矢張りについていく。
「あっちー」
「涼しいものあげようか?」
「は?」
「じゃーん、なんだと思う、これ?」
「扇子…!扇子だよ佐助様!」
目を輝かせて佐助の手にある扇子を見る。あれで扇げば、どんなに気持ちよかろうか。
森の中特有の涼しい風が吹き抜けて、髪が揺らいだ。ゴクリ、生唾を飲む。
「欲しい?」
「はい…!欲しいです佐助様!」
「お願いします佐助様。ね?」
「…お願いします、佐助様。」
台詞を棒読みし、扇子をふんだくろうとするが、ひょいと位置をずらされてなかなかとれない。
がグヌヌ、と奥歯を噛み締めて佐助を睨む。
汗が、頬を伝う。
「てめえ!なんだよ、条件満たしただろ!早くよこせ!」
「やーだもん。」
「きもっちわりぃ!ペッペッ!なーにが「やーだもん」だ!いいからよこせ!」
「乱暴はいけないよ、ちゃん!」
「ちゃんって言うなボケナス!」
こうやって言い合ってる間にも、は汗まみれになってしまう。
は叫ぶのをやめて、ふうと息をつき黙って歩き始めた。
川まで行って黙って水を飲むのが得策だ。
「え〜!ちゃん俺のこと構ってくれないの?俺様泣いちゃうよ〜!?」
「泣け、気が済むまで泣け。そしてどっかいけ。」
「冷たいなー。さすがちゃん。」
「それ、褒めてない。」
なんだかんだいってついてくる佐助にため息をつきつつも、ずんずんと川へ進んだ。
「ったく、なんでお前みたいなのが優秀な忍なのか…。」
「えーそんなの決まってんジャン。」
「何?」
「天才だから!」
「…」
「シカト!?シカトちゃん!?」
あーウゼえ。こいつマジウゼえ。誰かコイツを黙らせてくれ。
普段はあんまりしゃべんないくせに、俺の前だとなんでこうも饒舌なのか。
隣でウキウキと歩いている佐助を見て、重々しいため息を再びついた。
「ふーやっぱうめえ。」
「うんうん。」
「明日は伊達と戦だっけか。独眼龍、と戦うのかー。決着つくのかねえ?」
「ちゃんが本気になれば、ちょちょいっと決着つくよ。」
「俺はこの通り弱いからな…ま、なんとか頑張るか。」
戦場での自分の変貌っぷりを知らないのだから面白い。
佐助はくくっと面白そうに笑っての肩を抱き寄せた。
「うげっ!なんだよきしょいな!」
「明日は頑張ろうな?」
「…勿論!この命、親父に捧げてやる。」
幸村と同じく、武田信玄を崇拝しているは、熱い意志を胸に、城へ戻っていった。
佐助もそれに続き、チラリ横顔を盗み見する。
(綺麗で、迷いのない瞳だ。)
父である信玄とよく似たその瞳を見て、また佐助は面白そうに笑うのだった。
「なんだ佐助!人の顔を見て笑うのはよくないぞ!ああ、よくない!」
「ごめんごめん」