夢の中の片思い





が親睦として織田の城へやってきて、蘭丸は彼女に恋に落ちた。一緒に居る日々は輝かしくて
どんな宝玉よりも輝いていた。そして、がこの城を去ってからもう何日も経った。
相変わらずは、元気にやっているのだろうか。そればっかりを考える。

結局、想いは伝えることなく終わってしまった。
それは、振られてしまうのが怖かったわけではない。勇気がなかった。それだけだ。
人を斬るのに勇気なんて必要ない。信長様のためにだったら何でもできる。
でも、恋は違った。なかなか自分の思っていることを言い出せなくて、もどかしい思いばっかりして
自分が意気地なしだってことに、気づいた。

この前までは、手を伸ばせばすぐに触れる所に居た
儚い何かに触るようにその頬を撫で、くすぐったそうに彼女が笑うのを見て、蘭丸も笑う。
これが当たり前になっていた数日前。今では触れることなんて出来ない。遠く、遠くに居るから。
感覚は、いまいち覚えていない。必死に覚えようとしたけど、無理だった。

ごろんと布団に寝転ぶ。手を天井にかざしてみる。
この手が、と繋がったんだ。そう考えるだけで、胸が熱くなる。かざした手を胸へ持っていき、
ぎゅっと掴む。ドキドキと忙しく動いている。のことを考えるといつもこれだ。

目を瞑る。
一面に広がる、真っ暗な闇。時々見える、チカチカと光る何か。まるで夜空のようだ。
そして、の笑顔が見えた。夜空に煌く星よりも、ずっとずっと美しい。凄く恋しい。
何処の誰よりもその笑顔に会いたかった。

ゆっくりと意識が遠のいていく。何も考えられなくなって、そしてプツリと現実から意識が離脱した。



『蘭丸君!見てください、流れ星ですっ』

興奮気味にが夜空を指差して僕に言った。僕が夜空へ目を向けた時には既に消えていて、
が残念そうに願い事いえませんでした。とうな垂れた。僕は頭を撫でつつ、なんてお願いしようとしたの?
と尋ねた。

『えと…幸村様と幸せになれるように、です。』

照れくさそうに笑いつつ、が言った。
そう、は真田幸村が好きなんだ。あの赤いのが…。ズキン、ズキン、胸が痛い。
の言葉は鋭利な刃物だ。研ぎ澄まされた小太刀が僕の胸に突き刺さり、抉られるようだった。

『僕はね、次流れ星がきたらお願いするんだ。』
『何をですか?』
の幸せと、が僕を好きになってくれるように。』

矛盾した二つの願い。笑顔で告げると、がきょとんとした表情でえ、と言った。
僕は頭を振り、なんでもない。と笑った。

そして今日も、夢の中での片思い。