いつも通りの朝が、とても大事に思える。




「蘭丸君、蘭丸君、朝ですよ?起きてください」

目を開ければ、そこには愛しい彼女が居た。ぼやけた視界の中で、彼女だけが鮮明に浮かぶ。
蘭丸はうっすら笑みを浮かべて、彼女の背中に手を回し、ぐいっと押し寄せた。

「きゃっ、ら、蘭丸君!びっくりするじゃないですか。」
「あは、が今日も可愛いから近くで見たくて。駄目だった?」

蘭丸の目が、を吸い込んでしまいそうなほど大きくなり、パチパチと瞬きした。
は顔を赤くして、もお、と目をそらした。

「ね、。こっち見て?一緒に見詰め合おうよ。」
「やーです。恥かしいですからっ、さ、こんなことやめてご飯食べに行きましょう?信長様が待ってます。」
「あ、そうだね!よーしっ!じゃあ、僕着替えるね」

やっとを離し、蘭丸は着替えを始めた。なるべく見ないように気をつけながら、
蘭丸が着替え終わるのを待った。

(蘭丸君ってば…私がいるのに何で平気なんでしょう?)
素朴な疑問を持ちながらも、着替え終わった蘭丸とともに朝ご飯へ向かった。



「丸、、遅かったな。」

信長がやってきた蘭丸とに向かい不機嫌そうに言った…というか、いつでも不機嫌そうな顔だが。
隣で濃姫が微笑を浮かべて佇んでいる。今日も美しい。蘭丸とは信長に頭を下げつつも
それぞれの席に座った。と蘭丸は、隣同士だ。

「それじゃあいただきましょうか。」
「うむ。ではいただくか。」

濃姫様の言葉に、お食事が始まった。
信長と近しいものしかこの食卓には参加できないので、少ない人数での食事である。
言葉を交わすのはと蘭丸くらいだった。

「蘭丸君、これ美味しいですよ。」
「ほんと?が言うなら本当だよね。」
「ふふっ。蘭丸君てば恥かしいこと言わないでくださいよ。」

濃姫は二人の様子を見てひっそり微笑んだ。 ―――信長様の言われたとおりだわ。
実は信長は予言めいたことを言っていたのだ。

――蘭丸と信玄公の娘を会わせてみろ。面白いことになるぞ。――

と。勿論濃姫は信長に従いと蘭丸を引き合わせた。
最初はあからさまに武田の娘であるを警戒していたが、そんなのは最初だけで
少し話すと角がとれて、信長や濃姫へ向ける笑顔で話しこんでいた。 

その二人が結婚するとは。
つい先日祝言をあげた二人で、新婚そのものである二人はいつでも何処でも戯れている。
だが、も蘭丸も天然でいい意味で無知なのでイヤラシイ行為なんかはしていない。…はずだ。

「蘭丸君、ごはんつぶついてますよ?」
「え?ホント??…じゃあ、。とってくれないかな?」
「ほええええ!?や、それは恥かしいです!」
「むぅー、いいじゃん。ぺろって舐めとるだけでいいから、ね?」

してない。……はずだ。

「でも、恥かしいです…っ」
「いつもやってくれてるじゃん!恥かしがらなくてもいいんだよ?」
「でもぉ…。」

してない。………はずだ。

「もうっ、蘭丸君の破廉恥!絶好です!」

ガタッと席を立ち食卓を立ち去る。

「あう、!?ごめんってー!」

それを慌てて蘭丸が追いかける。あっという間に食卓がシンとなった。

「全く…先が思いやられるな。」

信長が面白そうに笑った。