笑顔が一番似合う女の子




『幸村様ー』

訓練中にもかかわらず、幸村は不埒ながら妄想をしていた。頭の中ではが笑顔で手を振っていて、
幸村は思わず顔が緩んだ。愛しの恋人は、本当に笑顔が似合う。彼女の笑顔は幸村に元気を与えるし
何より周りの雰囲気が和むのだ。彼女の笑顔があれば、天下統一も夢ではない、と幸村は考えている。

彼女が敵将軍と一緒に団子を食べあったら、それだけで「戦やめよう!そうしよう!」と言い出すであろう。
今度、武田信玄ことお館様に、このことを提案してみようと思う。だが…恋人である幸村自身としては
他の男と団子を食べるなんて、幸村の中にある独占欲がじりじりと己を焦がすが、天下統一のためなら
仕方ない。と妥協している。ただ、一緒に食べる以上のことをしたら、黙ってはいないが。

「幸村様ー?見てください、わたしがお団子作ったんです!幸村様に食べていただきたくて…。」

一本の三色団子を大事そうに両手で持ち、笑顔で噂のがやってきた。
一瞬幻覚か?と思ったが、彼女の姿は紛れもなく本物で、の姿を認めると、おお!と嬉しそうに叫び、
持っていた訓練具を置き、一目散に駆け寄った。

「こ…これが!殿の作られた団子!」

目を輝かせ、口の端からだらしなく涎をたらす幸村に、は「はい!」と元気よく返事をする。
ああ、可愛いその笑顔。本当に、やばいと思う。

「そ、そそそそれをそれがしに!?」
「もちろんです!お口に合うはわかりませんが…わたし、丹精込めて作りました。」
「はううっ!殿に作って頂いた団子を食べれるなんて…真田幸村!これ以上の幸せはないでござる!」

感涙を流して叫ぶ幸村に、そんな大げさな…。とは苦笑いをした。
だが幸村にとって、から何か手作りのものを貰うと言うのは、本当に至福の幸せなのだ。
彼の世界の中心はなのだから。

「それがしなんかが頂いていいのか…疑問でござるが、美味しく頂くでござる!」
「はいっ!頂いてください!」

何処となく勿体無い気がするが、の親切を踏みにじるわけにはいかない。
幸村はに深くお辞儀をして、「いただきます!」と団子にぱくついた。


噛めば噛むほどほんのりとした甘みが広がる。
冗談抜きに、彼女の作った団子は、今まで食べたどこの団子よりも一番美味しい。
幸村の目に、うっすら涙がにじんだ。

「ゆっ、幸村様!?」
殿ぉ…そ、それがし、こんなに美味しい団子を食べれて、本当に嬉しいでござる!」

零れかけた雫を強引に拭う。

「本当ですか?そんなに喜んでもらえるとは…また今度、作らせてもらいますね。」
「じゃあ、それがしも何かお礼を…」
「いえいえ、そんな。わたしが好きでやったことですから。」

そうはいうものの、こんなに美味しい団子を貰っておいて、お礼をしないのもなんだ。
幸村は勇気を振り絞り、を見つめた。

殿!す、好きでござる!」

ぎゅっと抱きしめて、愛を叫ぶ。周りには訓練をしている兵たちが居て、彼らは愛の言葉を聴くなり
「ヒュー」と口笛を鳴らしたりして、冷やかす。お互いの顔は既に真っ赤で、幸村は心臓がバクバクしている。
心音がとても大きく聞こえる。――ああ、俺はこんなにのことを好きなんだ。
煩い心臓が、それを思い知らせている気がした。そんな中、が幸村の胸の中で、「わたしもです…。」
と呟いたのは、幸村に届いたのか、否か、それは幸村のみぞ知る。