僕の姫様争奪戦




女王騎士であるは、仲のいいカイルと今日も昼食を一緒にとっていた。
向かい合う形ではなく、隣同士である。

「う〜ん、今日も美味しいね」
「だねぇ〜毎日食ってても飽きないって、相当だよなぁ」

ほのぼのとした会話を交えながらフォークでサラダをつつく。
それをカイルが嬉しそうに見守っている。いつものへらへらとした顔ではない。
男が女を愛でるときの顔である。周囲のものは気づいているが、自身は気づいていない。

「ほら、ドレッシングついてるって」
「え、ほんと?恥かし・・・」
「とってやるよ」

恥かしがるに、ニヤと笑顔を向けて顔を急接近させる。
何が起こるか予測のつかないはカイルの行為をじっと見守る。

「ひゃっ!」
「あはは〜反応が新鮮で可愛いですね」

何のためらいもなく、の唇の端についたドレッシングを舐め取る。
その行為に、は顔を真っ赤にして小さい悲鳴を上げた。
の反応を見て、カイルは嬉しそうに笑った。

「カ、カイル〜からかうのはやめてよ!」
「からかってないって、が可愛いからやったの。」
「わけわかんないって・・・」

傍から見れば恋人同士のような会話を交わしているのだが、は気づいていない。
カイルはそこもまた可愛いんだけど・・・と惚けているが。

「やあカイル?」

瞬時にカイルが振り返る。すると、王子殿下であるがむすっとした表情で佇んでいた。
カイルの後に振り返ったが歓喜の声を上げてを迎えた。

「あ、様!それにリオンちゃん、ご機嫌麗しゅう。」
「こんにちわ様!」
「こんにちわさん。何してたの?」

カイルがあからさまに顔をしかめた。リオンはを尊敬してるからいいとする。
だが――――何してたのって、ここは食堂なんだから食事に決まってるでしょう。それなのに・・・。
もまた、に恋焦がれていることをカイルは知っている。
だから偶然を装ってに声をかけたのだ。これもまた、は知らない。

「お昼ごはんを食べてました。王子は?」
「僕も食事をしようかなーって。もしよかったら隣、いいかなぁ?」

可愛らしく小首を傾げて問うに、が驚愕の声を上げた。

「ええ!?王子、こんなところでですか!?もっとちゃんとしたところで食べれば・・・」
「ううん。僕、さんと一緒に食べたいんだ・・・。駄目、かな・・・?」

途端に表情を暗くしたに、慌てては首を横に振った。
自分の横のイスを引いて、どうぞどうぞ!と招いた。
それを、面白くなさそうに見つめるカイル。だが何も言わない。いや、正確には立場上何もいえない。

「あ、もしかして邪魔だった?カイル」

満面の笑みを浮かべてカイルに尋ねると、カイルはいえ。と低く呟き首を振る。
そこにが、「大歓迎ですよ、王子」と優しく微笑んだ。

「ああ、様は心まで寛大なのですね・・・」

リオンがうっとりと呟く。それに賛同するようにがうなづき、全くだよ。といった。
それには照れたように笑い、「そんなことないです」と恥かしがった。

「そんなことないよ、さんも僕の護衛になって欲しいくらい・・・」
「王子の護衛はリオンちゃんだけで十分ですよ!それに、”さん”なんていりません」

この言葉に、がパァッと明るい表情になった。

「ホント!?じゃあ・・・?」
「はい!」

意気揚々と返事を返すと、二人は笑いあう。一頻り笑い終えると、
「僕らも料理をとってくるよ」と席を立ち、リオンとともに歩き出した。

「カイル、やっぱり王子は素敵な方ね」
「まぁ・・・ね」

いまいちな返事に、が首を傾げる。

「どうしたの?元気ないよ?」
がいけないの〜」
「えっ!?ご、ごめん・・・」
「”ごめん”て、なんでかわかってんのかよ〜」
「わ、わかんないけど・・・」

苦笑いしながらカイルがのおでこをコツンとたたく。
痛いよ〜。と笑うに、カイルは思わず笑んだ。

「あ、笑った」
のおかげ」
「へへ、じゃあお相子だね」

はにかみ笑顔。―――くそっ!可愛いなぁ!と心の中で叫びをあげる。
こんな笑顔を向けられては、何でも許せてしまう気がする。
彼女の笑顔の破壊力は絶大であった。

だが、カイルの幸せは次の瞬間一気に崩れた。

「ただいま、
「おかえりなさいませ、王子、リオンちゃん」

王子がご帰還した。途端曇るカイルの表情。ちきしょー・・・。と内心毒づく。
彼女の”一番”でないことを悔しく思う。

「いい香りだね。いただきまーす」
「いただきます!」

二人が食事を摂る姿を微笑ましく見守る
その視線に気づいたが、頬を赤らめて「恥かしいから見ないで」と小さく呟いた。
その言葉に、ふふっ。と笑い、わかりました。と了承した。

「あ、用事思い出した!ごめんなさい、今から行かなきゃ・・・」
「ん、わかった〜。またな!」
「残念・・・今度ゆっくり話そう」
様のお話聞かせてくださいね!」

三人とそれぞれ言葉を交わし、は慌しく食堂をでていった。
が去った後に残るのは沈黙。
先に沈黙を切り裂いたのは、のほうからだった。

・・・僕がもらうから」
「その言葉、そっくりそのままお返しします。」

二人して不気味な笑みを浮かべる。リオンはわけがわからないようで、
きょとんとした表情で二人を見ていた。