午後の昼下がり、とルックは図書室で静かに読書をしていた。
ルックの持つ本は、難しい単語が羅列されている小難しい本を難なく読んでいて
のほうは童話を嬉しそうに見ている。
やがて読み終わったらしく、本を静かに閉じてテーブルに突っ伏した。

「ふう〜」

読み終えてからの満足感からか、四肢を伸ばし息をついた。
まだ読み終えていないルックは、隣のに目もくれることなく本を読み続けている。

「ねえねえ」

突っ伏したままルックを呼ぶ。だが読書に集中しているルックはそれに気づかない。
それを面白くないと思ったが、顔を上げて不機嫌な顔でルックを睨んだ。

「聞いてるのルック?」

唇を尖らせてくい、くいと服の裾を引っ張ると、ルックはようやくこちらを向いた。

「――――何さ?」
「結婚式ごっこしよう。」




Wedding Ceremony




突然何を言い出すんだコイツは・・・。僕はコイツの発言に心底驚いた。
僕とコイツの間には何もない。恋人ではない、ただの仲間・・・。
は思っている。―――――僕は、そうは思ってないけどね。

「結婚式―――――?」

敢えてごっこを抜かして問い返してみると、案の定「結婚式ごっこ!」とごっこを強調してきた。
そんなに僕と結婚式がしたいのかな?(あえてごっこは言わない)
それにしても、は本当に――――

「バカだね」

バカと可愛いだったら可愛いの方が勝るけどね。
まだ言ったことないけど、いずれ僕らはそういう関係になるから、そのとき言うさ。



「…じゃあ、結婚式ごっこはとやってきまーす。」

――――え?
突然立ち上がったと思ったら、次の瞬間には駆け出していた。
…ってちょっとまって、とやるだって?何を?結婚式を??

そ れ だ け は や め て く れ ! ! !

本を叩きつけるようにテーブルにおき、久々に走り出した。
の足は速い、果たして追いつけるか…?

どうでもいいが、の本と僕の本。誰がかたすのだろうか?







今日、に呼ばれてこの城にいるはずだ。
彼は釣りが好きだから、釣り場にいるはずだ。あたしは更にスピードを上げて釣り場へ向かった。

「あ…れ?」

釣り場には、いつもの空をぼんやりと見上げて釣りをしている姿がなかった。
不思議に思って釣り場を駆け回るが、やはり彼の姿はなかった。
いない…のかぁ―――――
急にどっと疲れが押し寄せたので、座り込み裸足になって両足を湖に浸からせた。

「あのけちんぼ…。」

さっき結婚式ごっこのお誘いを断った毒舌の風使いが頭を横切って、
べーっと舌を出し悪態をついた。

「お遊びぐらいやってくれたっていいじゃない」

ぱちゃぱちゃと足を遊ばせる――――。水が跳ねて衣服に水が付着したけど気にしない。
暫くの間足をばたつかせていると、ふと足音が聞こえてくる。
あたしにはわかる。この足音はきっと――――


「何よ、ルックちゃん」

眉を寄せて振り返れば、矢張りそこには法衣を身に纏ったの風使いがいた。
急いでいたのか、顔には似合わぬ焦りがにじみ出ていた。
その姿を見て内心ほくそえんだ。全く、素直じゃないんだから。

には会ったの?」
「いや、いなかった。もしかして、ルックちゃんあたしと遊んでくれるの?」

首を傾げて尋ねると、ルックは頬を染めて口を閉じ、俯いた。
どうしてこんなにも素直になれないのかしら。意地っ張りなルックに小さく笑いがこぼれた。

「ねえ、どっちなの?」

答えを急かすと、ルックはますます口を固く結んだ。
これには少々呆れて来る。あたしは視線を湖へとやった。

「僕は…」

振り返ると、すぐそこまでルックがやってきていた。何かな、とじっと見つめると
跪き、顎に手を添えられて、そして――――

ルックのくちびると、あたしのくちびるが重なった。目の前のルックは目を閉じている。
あたしも目を瞑り、暫くそのままでいる。やがて、ちゅ、と可愛らしい音を立てて、離された。

「僕は、恋人じゃないと結婚式はしないよ。ただの友達とじゃ、絶対やんないからね。」

あくまでごっこはつけてくれないルック。ただの友達とじゃ、って…あたしたち今キスしちゃったよね?
ただの友達じゃこんなことしないわ。あたしはそう思うんだけど、違うかしら?

「好きだ、。」
「あたしも好き…かな?」
「何で曖昧なのさ。」
「好きだよ!ルックの事好きー!いつ結婚式する?」

あたしもごっこを抜かす。驚いたように目を見開いたルックは、やがて不敵な笑みを浮かべて
隣に座った。横顔も整ってるなぁ…鼻がスラッと高くて、男のクセにまつ毛長くて…。
性格さえ良ければいいのにね、こんな性格についていけるの、あたしぐらいだよ?

「君が望むのならいつでもいいよ。」
「じゃあ、戦争終わったら結婚式しよ?このお城で…。さ、そうと決まったらまずに報告!」

さっと立ち上がっていそいそとの許へと向かう。の所にはナナミがいるから、あっという間に
広まると思うからあとは報告しないでもいいよね。後ろからルックの「待ってよ!」と非難の声が上がるが
シカトシカト!

「ったく、君が気が早いんだから…。」
「善は急げっていうじゃない!」





戦争が終わり、皆幸せに包まれている中、約束どおり結婚式が執り行われた。
美しい花嫁衣裳を纏ったの姿に、兵たちは益々活気付くし、ルックのタキシード姿にも
女たちが感嘆のため息を漏らす。誰も不服を漏らすものは居ない。
なぜなら、とてもお似合いな二人だから。微笑み合う姿は絵になる、のわけわかんない発言に
ツッコむ姿は笑いを誘う。


「好きと言うか、愛してるよ。。」
「あたしの方が愛してるわ。」
「僕の方だよ」
「あたしよ!」
「僕って言ったら僕なんだよ、さ、じゃあそろそろ行こうか。」

二人とも身寄りがいないため、入場は二人一緒と言う異例の形になった。
ルックの腕をつかみ、一歩一歩踏みしめるように歩く。
隣を見れば、ルックもこちらを見ていて、やがて微笑みあった。