触れない指先




お義父様に言われて、今から幸村様を呼ぶことになりました。
幸村様ならきっと、訓練所に居ると思い、私は急いで訓練所へ向かいました。
ですが、訓練所に彼の姿はありませんでした。
おかしいなぁ、と思いきょろきょろと見回しましたが、やはりいませんでした。

「おっ、姫じゃん。どうしたんですかー?」

困った私に、佐助様がお声をかけてくださいました。
もしかしたら、佐助様なら知っているかも…?

「ああ、佐助様。幸村様を知りませんか?お義父様が探しておられるのです。」
「あー旦那?お館様が探してるの??旦那なら姫のこと探してたけど?」
「ええっ!?私を、ですか?」
「うん。じゃ、頑張って〜」
「判りました〜ありがとうございまする!」

何用でしょうか。気になります。それにお義父様も探しておりますし…。
私は幸村様のいそうなところをくまなく探しました。
ですが、何処に行っても見つかりません。お互い探しあっているからでしょうか…。
或いはもう、お義父様のところへ行ったのかも?そう考え、私はお義父様の所へ向かいました。

「お義父様ー?」
「おおか。もういいぞ、幸村には会ったからな。」
「そうなのですか??…つかぬ事をお聞きしますが、幸村様は何処かご存知ですか?」
「む?も幸村に用があるのか?幸村もの事を探していたぞ。何処に居るかは存じないな…。」
「わかりました…ありがとうございます」

本当に幸村様は何処へ行ってしまったのでしょうか。
人を探すのがこんなに大変だとは思いませんでした…。これはいい運動になりますね。

「あら〜?姫ってば、まだ旦那のこと探してるの??」

ボワン、と煙が上がったと思ったら、先ほどあった佐助様がでてきた。

「はい、見つからないんです…。お義父様のところへはもう行ったらしいのですが…。」
「へぇ〜、んじゃ。俺も一緒に探すよ!ね?」

佐助様が私の手を取り、歩き出した。誰かに手を握られ歩くなんて、本当に久しぶりです。
緊張します…。佐助様の手は大きく、私の手なんかとは比べ物になりません。
男の人って、逞しいんですね。改めて実感しました。そういえば私、幸村様の手をご覧になったこと
ありません。今度見せてもらいましょう。

「そういえば姫ってさー」
「はい?」
「旦那のこと、どう思ってるの?」
「凄い頼りになると思います!それに、とてもカッコイイです。だから女性におモテになられるのでしょうね。」

私は佐助様にちょっぴり嘘をつきました。
本当は、幸村様のこと…好いております。ですが、このことは私以外知りません。教える気もないです。


「へぇー…なるほどね。」

そう呟いて、佐助様は繋いだ手をブラブラ揺らしました。
なんだか、変な気分です。恋人同士…みたいです。
そんなことを考えている自分が妙に恥かしく、思わず顔を赤くしました。

「あ…姫、旦那いた!」
「え、どこですか!?」
「ほら、つきあたりを丁度曲がってきた…」
「ほんとです!行きましょう!!」

そういって私が走り出すと、佐助さんが「え?」と困ったように言ったような気もしますが
夢中になってた私には聞こえてきませんでした。

「幸村様ぁー!」
「…む、姫!?って…あう?」

「あう」って幸村様、可愛らしい声をして首を傾げないでください!
視線をたどってみますと、どうやら私と佐助様が手を繋いでいるのが気になるご様子。

「そういえば繋いだままでしたね?ごめんなさい、佐助様」
「あ、いやいや別に。それじゃあ俺はこのへんで」

にや、と笑い煙を上げて姿を消しました。幸村様と私の二人っきり。

「姫は…なぜ佐助と手を?」
「えーとですね、一緒に幸村様を探してくれることになりまして、自然とです。」
「…成る程。わざわざそれがしのことを探していただき、まことにかたじけない!」
「いえいえ、幸村様を探している間、楽しゅうございました。」
「そうでござるか…。」

何処か沈んだ御様子の幸村様に首を傾げつつも、私は幸村様から話を伺うことにしました。

「ところで幸村様?私に何か御用がありまして?」
「あ、そうでござった!…姫、ここでは何かと不備なので、もうちょっと人気のない所に。」
「判りました。」

幸村様が人気のない所を探しに歩き出し、私もその後に続きます。
それから暫く歩き、木々が鬱蒼と生い茂る森の近くへとやってきました。

「あのですな…姫。」
「はい。」
「それがし…それがしは…姫の事を…ああああ愛し…愛しているでござる!」
「…つまり、それは、あの、幸村様が、私のことを、すすすすす好いているのですか!?」
「いかにも!」

びっくりしました。顔を真っ赤にした幸村様が何を言うのかと思ったら、ああああ愛の告白!?
私まで顔が赤くなり、俯きました。どうしましょう!?幸村様が…私のことを好いてくださっている!
これ以上にない幸せに、私は頬が緩むのを感じました。

「それで殿は…どう思っているでござるか?」
「私ですか?私は…」

私も愛しております。と言いたかったのですが、どうにもこうにも口から出てこない。
初めて愛の言葉を告げるということで、相当緊張しているんでしょう。
暫く言いよどんでいると、幸村様が俯きました。

「…姫は、それがしなんかより佐助の方がいいでござるな。判ったでござる。」
「え?幸村様?」
「すまんでござる。…忘れてくだされ。」
「幸村様っ、違います!幸村様!」

踵を返し、帰ろうとする幸村様の手を掴もうと、手を伸ばしましたが届きませんでした。
…どれだけ叫んでも、幸村は振り返ってくれませんでした。
触れない指先、触れられない指先。私は届くことのなかった手をぎゅっと握り締め、静かに涙を流しました。















続きますのです!