眠りによせて




姫のお気持ちは、それがしのもとに佐助と手を繋いでやってきたときから、判っていた。
それでも諦めきれずに、一筋の祈りに願いを込めて想いを告げたのだ。
言いよどんだのは、それを裏付けることとなった。それがしはいてもたってもいられず、姫から離れた。
これ以上一緒に居るのはつらかった。所詮それがしは武田家に仕える武士。
殿と渡り合うような存在では…なかったのだ。

あれからそれがしは、自室に引きこもった。訓練に出る気にもなれなかった。
布団を頭までかぶり、何も聞こえない、何も見えない。そんな世界に一人、入り浸った。

…殿。」

明日から殿はいつもどおり接してくれるでござろうか?
それが気がかりだった。変に意識され、避けられてしまっては困るのだ。
それがしは、姫の幸せだけを願っている。だから、それがしのことを好いていなくて、構わない。
姫が幸せなら…。と、思っているのだが、矛盾した気持ちが幸村を責める。
本当は、本当は、お付き合い願いたかった。そんな気持ちが、確かにこの胸に存在した。

目を閉じて闇の世界を見てみれば、不意に浮かんできたの笑顔。
太陽よりも眩しくて、団子よりも甘くて、花よりも綺麗で、陶器よりも儚い。
そんな笑顔だった。

(どうしよう…。)
の笑顔が、脳裏に焼きついて離れなかった。
今その笑顔を見れば、泣いてしまうかもしれないのに。それでも離れなかった。

――幸村様――
瞳の中の闇の世界に現れた一筋の光、。そのが、幸村の名を呼んだ気がして
幸村は葉を食いしばった。

そんな笑顔で、それがしを呼ばないでくだされ…!抱きしめたい、そんな衝動にかれるから。
そなたは佐助が好きなんだから、それがしに優しくしないでくだされ…。
淡い期待を抱いてしまいそうだから。その期待を抱いてしまったら、あまりに自分が可哀想に思える。
そんなときだった―――

「幸村様?いますか。幸村様?にございます。の話を聞いてください。」

幸村はそろっと布団から頭を出し襖のほうを見ると、のシルエットが見えた。
何のつもりでござろう。…もしかしら、本格的に断りにきたのかもしれない。
敵兵の攻撃には打たれ強くとも、慕っている女性から何度も拒否られたらへこむ。

「幸村様、の話を聞いてください。幸村様。」
「…まこと申し訳ないでござるが、帰ってくだされ、殿。」
「……判りました。では、また明日。伺いますゆえ。」

大好きな声。いつだって聞きたかった声。だけど今は、聞きたくなかった…。
再び布団を頭まで被り、目をぎゅっと閉じて耳をふさいだ。

――幸村様、幸村様――
瞳の中のが、笑いかけてきて、不覚にも目頭が熱くなった。

やっぱり、殿が、好きでござる。
殿の幸せを願うのは本当だが、それでも殿が好きだ。

殿、やっぱり殿への想いは消せぬでござる。
ぶつかっていく消せぬ想いを、責める方が筋違いでござろう。
今後誰にも明かすことのないこの想いを、今夜だけは眠りに寄せて。共に寄り添おう。














短い!短すぎるっ_| ̄|○